リズミカルな絵本 ハンス・フィッシャーの世界展
晴れた日よう日、「ハンス・フィッシャーの世界展」を観に、伊丹市立美術館へ。
JR伊丹駅で降り、家族連れでにぎわう通りをしばらく歩く。酒造の町として栄え、その酒蔵建築などが残る「みやのまえ文化の郷」のなかに伊丹市立美術館はあった。さほど大きな建物ではないはずなのに、白い壁と高い天井、中庭が開放的で、ゆったりと展示を見てまわることができる。二階と地階を使い、『メルヘンの絵本』『ブレーメンのおんがくたい』『いたずらもの』『たんじょうび』『こねこのぴっち』『るんぷんぷん』『長ぐつをはいたねこ』などの原画や版画、初版本、子どもたちに贈った手製の絵本など、約250点のにぎやかな展示!
【ハンス・フィッシャーの世界展】
http://www.artmuseum-itami.jp/2009_h21/09hans.html
「こねこのぴっち」「たんじょうび」「ブレーメンのおんがくたい」「長ぐつをはいたねこ」など、楽しい絵本で子どもたちに愛されている絵本作家ハンス・フィッシャー(1909-1958)。
スイスのベルンで生まれ美術学校で装飾画・版画を学んだ後、パリに渡り働きながら絵を学びました。帰国後、ショーウィンドウの飾り付け、舞台美術、新聞のカットなどいろいろな仕事をしましたが、もともと体があまり丈夫でなかったため過労で倒れてしまいます。療養を兼ねて家族と共に郊外に引っ越し、釣りをしたり植物のスケッチをしたり、子どもと遊ぶなど静かな生活を送るなか、長女ウルスラのために描いた「ブレーメンのおんがくたい」で絵本が自分の芸術を表現するのに最適なものだと感じました。その後、長男カスパールには「いたずらもの」を、末女アンナ・バーバラに「たんじょうび」と「こねこのぴっち」を作りました。
(伊丹市立美術館ウェブサイトより)
一枚の絵のなかで物語が完結する『メルヘンの絵本』シリーズは、物語から一部を抜粋して絵で語るヨーロッパの伝統的な手法。『ブレーメンのおんがくたい』など、ハンス・フィッシャーが世界中の子どもたちに遺した絵本は、そもそもは彼の三人の子どもたちに贈られたプライベートなものだという。ハンス・フィッシャーの手づくりによる絵本の出来栄えを見ると、彼が愛情深い画家であったとともに愛情深いパパでもあったのだなと感じられる。愛情とは、はじまりはごく私的なものにすぎなくても、なんと強い力をもつのでしょう。
会場の壁面を使って、絵本の「絵」と「物語」がページごとに展示されていて、じっくりと絵本を読むことができる。子どもでなくてもついつい口に出して読み上げてしまう、軽快でかわいい物語。『ブレーメンのおんがくたい』の展示室では、にわとりやロバや犬や猫がわめくように、チビッコが鳴きまねをしているのがやかましくほほえましい。
1950年代に描かれた『長ぐつをはいたねこ』は、それ以前の細い線と水彩の画風とはちがい、力強くユーモラスな絵。子どものころに読んでいた名作は、シンプルながらもよく練られた起承転結、「メルヘン」の偉大さに驚く。「ねこ」が長ぐつをはいて立って歩く努力をしたり、鏡の前でいちばん怖い顔を練習する、その努力のエピソードは、後年のわたしたちはハンス・フィッシャーの苦悩のあとに重ねてしまうのだ。ちろん、表向きの絵にはそんな苦渋はみじんも感じられない、明るく楽しい絵ばかりなので、子どものころはそんなことには気づかなかったのだけれども。練習描きのようにひたすら並べられた「ねこ」の顔が柄になった、『長ぐつをはいたねこ』の愛蔵版(フランス語版、ドイツ語版)がかわいい。
かしこい犬と、ちょっとまぬけな猫二匹が奮闘する『たんじょうび』。その絵本のさいごのページでは、屋根裏部屋で生まれた四匹の子猫のなかで、夜になっても眠らない一匹の猫がいる。それが「ぴっち」。「どうしてこの子は眠らないんだろう」とふしぎに思った末娘アンナ・バーバラに、続篇といえる『こねこのぴっち』が贈られたのだという。
(うちのねこは黒×白ですが、鼻のあたままで黒いので「ぴっち」ではありません。生後半年くらいまで心配になるほど細くて小さくてよく動いて声だって高くて、メルヘンを絵に描いたような子猫だったけれども、いまではたまに野太い声を出すし、ひざのうえに乗られてしばらくすると足がしびれるほど立派な子になりました。ちなみに名前はパトといって、来月の誕生日ではじめて四季がめぐります)
生誕百年を記念した『ハンス・フィッシャーの世界展』は三月七日まで。フィッシャー家のプライベートな愛情があふれる作品の数々(ハンス・フィッシャーが、自分、妻、三人の子ども、猫の暮らしを一枚の絵に描きこんだドローイングもあった)。展示方法はいたって素朴、キュレイターや企画側の愛情が深い、とてもていねいな展示でした。遠くからでも行く価値はじゅうぶんあると思うよ。
【ハンス・フィッシャーの世界展】
http://www.artmuseum-itami.jp/2009_h21/09hans.html
伊丹市立美術館 2010年1月16日〜3月7日まで
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