東京中低域「東京中低域の六月の雨の月曜日」

昨日の今日でふたたび下北沢。昨日の「時々自動」の会場「ラ・カーニャ」と餃子の王将をはさんで反対側にある「440」で、今日は東京中低域のライヴ。演奏前に案内してもらったのは、焼鳥屋「八峰(はちみね)」。お店のカウンタでは中低域メンバーの田中邦和さんがすでに一杯やっていて、その隣でビールを注文。「つくねが美味いですよ」と聞いて素直に注文すると、つなぎは玉子だけという濃厚なつくねで大満足。鶏皮とねぎの炒めものもうわさどおりに美味しかった。串はどれももちろん安い。お店の雰囲気も含めてアタイのハートをわしづかみ! ここは下北沢のオアシスだ! と、感動していたら、そこに中低域メンバーの柴野曜さんまでやってきた。そんな、開演三〇分前。
【八峰】 東京都世田谷区代沢5-33-3 電話:03-3419-5822


前回のライヴから新しく筒井洋一さんが加わり、総勢十二人になった東京中低域。筒井さんもすばらしい奏者だと思うし、十二本のバリトンサックスでバリバリバフバフ吹くさまはヴォリュームたっぷり、おなかいっぱいで、それはそれで面白いのだけど、十人超えると個性が曖昧になってくるという気がしたのも事実。松本さんのパワープレイ、田中さんが奏でるメロウな音色、後関さんの悪ふざけ、鈴木さんと東さんの高いテクニックと安定感、小田島さんの熟練ぶり、鬼頭さんのハードなベースライン、柴野さんの職人的なフォロー、鶴田さんの個性なき個性、そしてポップスターである水谷さん。こうして挙げてみるとそれぞれのキャラクターは明確だ。ただ、それらの個性が十人を超えた大所帯になったときに、見えにくくなることがある。そのかわり、同じ楽器(しかもバリトンサックス)が十二人ならんだときのおかしさは、あっさりと手に入る。面白い、笑ってしまう、同じ楽器なのにこんなにも奏者によってちがうのかと思う。ただね、見たいのはそれ以上のもの。十二人をひとまとめにした集団の愉快ではなく、その十二人が誰であり誰の音色であるのか、集団における個人の仕事を面白がりたい。そういう意味では、個性の見え方に、すこし差があるかなあという気もするのだ。

といいつつ、ここしばらく観た東京中低域のライヴのなかでも、なんだかとても濃密な演奏が多かった。酔っていても、悪ふざけをしても、最初から最後まで逃れられない緊張感があった。それはとつぜん増えた新曲(むずかしそう)のためだろうか。手癖や笑いに逃げるようなシーンがまったくない、見ごたえのあるライヴだった。こういう演奏に出会うと、また次も観たいと健全に思う。

水谷さんが客席に用意した電話は、あくまで余興。その演出は必要だったかという気もするんだけど、場がゆるくなっても、音楽そのものの緊張感が途絶えなかったので、そういう意味で効果があった余興だなあと、なんとなくほっとして客席で笑った。

【東京中低域】