デヴィッド・マレイが歌う夜 DAVID MURRAY SUPER SESSION

青空を見上げると、どうにも冬が近い。

午後八時すぎ、新宿ピットインは大入り満員。「DAVID MURRAY SUPER SESSION」。それもそのはず、来日中のデヴィッド・マレイ(テナーサックス、 バスクラリネット)を、山下洋輔さん(ピアノ)、内橋和久さん(ギター)、不破大輔さん(ウッドベースエレキベース)、芳垣安洋さん(ドラム)という、豪華な布陣が迎えうつ、そんな豪華な夜なのだ。遅れてたどり着いたピットイン、観客があふれ出ていて閉じないドアの内側から聴こえてきたのは、歌うテナーサックス。濁りのない、見事なまでに流暢な音。ぐいっと身体を押し込んで、頭と頭が重なり合って前が見えないステージに向かって首を伸ばす。

大阪・名古屋・浜松・東京と渡ってきた渋さ知らズのツアーにもゲスト出演していたデヴィッド・マレイ。今回の渋さツアーはひとつも観にいかなかったので、この夜にはじめて、デヴィッド・マレイのプレイを観た。音が身体のなかに入ってきたとたんに、グラッときた。美しく、ノーブルで、しかし誰にも似ていない唯一無二の音。乱雑さはまったくないのに、パワフルでスタミナがあって、殺気立つ緊張感。酸素の薄い人ごみのなかで、ただ興奮して立っていた。好み、という音があるなら、まさにそれだ。休憩を挟んでも興奮は冷めず、ビールで煽って、次を待つ。好きな音の前では、わたしはとても素直だ。

第二部では、テナーサックスをバスクラリネットに持ち替えて登場。達者な尺八とのやや長めのデュオのあと、まず山下さん、そして不破さん、内橋さん、芳垣さん、四人の猛者がステージに戻ってきた。どの音も主役級。デヴィッド・マレイの音に、内橋さんのギターが重なり、デヴィッドが殺気立つシーンもあった。その一方で、とても美しい、カリプソのようなメロディが展開し、わたしはついつい歓声をあげて、ぎゅうぎゅうの客席で小刻みに踊っていた。

アバズレが許されるなら、アタイ、全員と寝たい!

そんな、下世話な欲求が吹き出るくらいにすばらしいライヴだった。音楽は生物、ナマモノでイキモノだ。息吹くジャズの強靭さを目の当たりにした。実にすばらしい夜。ジャズってのは、ムード音楽なんかじゃない、つまりは喧嘩出入り、殴り込みなんだ。デヴィッド・マレイはついには、リードから唇を離して、自分の声で歌ったんだ!

この奇跡のようなセッションは、渋さ欧州ツアーでもお世話になった、音楽評論家の副島輝人さんによる企画でした。意欲的に刺激的なセッションやライヴを、国内外でセッティングしつづけている副島さん、ほんとうにすごい仕事だと思う。会場でひさびさにお会いできてうれしかったです。