天満、冬の散歩道

さいきんのミスハタリはなにをしているかと言うと、マフラーをぐるぐる巻きにして谷町から心斎橋まで歩いたり、谷町のケーキ屋で甘い匂いに囲まれていたり、『かいじゅうたちのいるところ』を観たり、年明けにいただいた自転車で谷町から中崎町まで走っていったり(あたらしい名刺は藤衣真菜ちゃんによるデザイン、JAM印刷で画用紙に刷ってもらいました)、パンを焼いたりジャムを煮たり(そういう趣味ではなくて生活の一環として)、猫と並んで床に転がったりしています。

冬ですね。

 

中之島のあたりは用がないのにふらりと歩いてしまうエリア。用はないはずなのに、やはりその建物を見上げていると、公会堂や図書館に立ち寄ってしまいます。

西天満の老松通界隈には骨董品屋が多い。こういうところにはきっと猫がいる、と思ったら、やはり路地に黒猫。あいさつしたら長話になってしまった。そのうちに背後からしま猫。二匹はとても仲良し。ここでのんびり十五分。

 

黒猫の太いしっぽに、奥までおいでと促されて進むと、白いビルの入口に「白灯」という文字があった。階段を上がった先に白いスリッパが並べられている。すなおに靴を脱いでスリッパにはきかえて扉を開けると、決して広くはない店内に布小物や雑貨がぽつんぽつんと置かれている。こんにちはとあいさつをして入る。二十歳そこそこのころ、はじめての海外旅行で訪れたパリで、「お店に入ったらまずボンジュールと言いましょう」とガイドブックに書かれていたとおりに大学の第二外国語の授業で習った発音を思い出しながら言うと、ちゃんとあいさつが返ってきたことに慣れない旅行者だったわたしはとても感動した。それ以来、外国でも日本でも近所でもどこでも、わたしは最初に「こんにちは」と言うようになったのだけれども、そうすると、そこがはじめての空間であってもお店のひとはたいていやさしい。色白の女の子であるところの店主の方はあたたかい暖房のせいか頬をピンク色に染めて、穏やかな声で「こんにちは」と応えてくれた。そこで黒としまの猫を見たんです、と言うと、彼らは兄弟でいつもくっついているんですよと教えてくれた。この界隈のひとたちは外猫にやさしいので、無事に暮らせているのだという。

気になるものはいくつかあって、それは商品だけではなく板の床に白いチョークで描かれた値段だったり、床でゆらゆらと揺れるキャンドルの炎と穏やかな香りだったり。壁にかけられていた片面がガーゼ素材のタオルにこころを奪われる。たたみのうえに布を広げては、はしゃいでもぐりこんでくる猫と格闘しながら、せっせとカーテンやエプロンやぞうきんを手縫いしているさいきん。ガーゼの肌触りは魅惑的。ああ、近所にユザワヤがほしい(大きくて便利だった吉祥寺店は閉じたそうですが)。

【白灯】 大阪市北区西天満4-5-25 北老松ビル2F201号室
http://hakutou73.exblog.jp

その日はとても暖かくよく晴れた日で、手袋もマフラーも必要なかった。冬の長い夕暮れにかかるすこし手前、午後三時すぎ。陽射しはやさしく、そしてわたしの気もちはすこし落ちこんでいた。南へと橋を渡る前に、左により道。大川沿いの南天満公園に面したところに「喫茶星霜」はあります。


【喫茶星霜】 大阪市北区天満4-1-2 天満佐藤ビル1F
http://d.hatena.ne.jp/kissa-seiso/

家から歩いてふらりと寄るというのには遠いのだけれども、大阪の町にある好きな空間のひとつ。新しい町を知るための方法のひとつに、「散歩の休憩には好きになれそうな佇まいをした喫茶店やカフェに寄る」ことがあるのだけれども、喫茶星霜は、散歩のついでだけではなく、そこに行くために寄ろうという気もちになる空間。水曜日の午後三時半、店内のテーブルはほぼ埋まっていたけれど、とても静かで穏やかな空気が流れていた。コーヒーではなく(上町「赤い実コーヒー」によるオリジナルブレンド、ちょっと浅煎り?)、紅茶を頼んだら、やっぷり入ったポットに、リネンとガーゼ(ここでもガーゼ!ラブ!)の二枚傘ねのティーコゼがちゃんと付いてきて、「ミルクティにするときは先にミルクを注ぐといいです」と教えていただいた。店主の方の人柄、店内を飾る雑貨や調度品のセンス、ひとをもてなすということをよく知った接客、そのすべてが気持ちよい。午後の陽射しが夕方を連れてきて、古い木のテーブルのうえに真白い紙を広げたら、するするとアイディアが浮かんできて、わたしは鉛筆で落書きをしながら、近いうちに旅と散歩と暮らしの本をつくることにきめた。

店を出て自転車に乗って川を渡る。あたまのなかに「いまやりたいこと」が満ちているときがなによりしあわせだ。それが本の編集であれば台割を作るとき、お店を開くならコーヒー豆や椅子のことを考えているとき、それが今日の晩ごはんであれば冷蔵庫の中身を思い出しながら献立を考えているとき。たいていは夕暮れとともに、幸福な思いつきがやってくるものです。

そんなふうにして一月は過ぎました。二月は「旅とカレーと喫茶と日常」を大切にしたお店と本をつくるよていです。

<おしらせ>
ハタリブックス・ウェブサイト、リニューアルしました(2010.02.01)。
http://www.hataribooks.net/