ヘルツォークを観に行こうと思い立ち、映写機をまわしている友人に電話をしたら「きてもいいけど、二時間半観ても十五分も進んでいないような映画だよ」と言われたのでやめにした。そのかわりにギャラリー小柳に立ち寄ってソフィ・カル展をのぞいた。わたしもエッフェル塔、いいや東京タワーの天辺を一夜のねぐらにしてみたい。そしてみなさんはその眺めのいい部屋を訪れて、五分間だけなにか面白いお話をしてわたしを喜ばせてくれればいい。その後、タワーはタワーでも渋谷のレコード屋の地下でイルリメのライヴをみた。「唄うスピーカー」とはよく言ったものだけど、サンプラー抱えながら喋り続けるモユニジュモさんは公園の噴水広場でアコーディオンを弾きながら踊る大道芸人のようだった。その身体ありきの音楽にもひかれるけれど、このひとのリリックはマジックだ。すばらしい感度であふれだす言葉のかずかず。渋谷交差点でふと立ち止まり、ヘルツォークとは別の友人に電話をして、ロイ・アンダーソン散歩する惑星』(2000/スウェーデン+フランス)を観せてもらいにいった。なんともおかしな映画だった。本題(人生)は遅々として進まず、そのかわりに些末な仕草(現実)ばかりが愉快な展開をみせるのだ。前に座っていたカップルが途中で我慢ならんとばかりに席を立っていった。昼間の地上で聞けばもどかしい話かもしれないけれど、真夜中の空に浮いたよな部屋でこんなお喋りをする小父さんが現われたならきっと眠ってしまうなんてこと無いだろうなあと思った。そういう映画だった。