htr2003-08-08

わすれてしまいそうだから先に八月六日のこと。京橋のフィルムセンターで市川崑『あなたと私の合言葉 さようなら、今日は』(1959/大映)。男やもめの父親(佐分利信)と奔放な妹(野添ひとみ)の面倒をみながら一家を支えてきた若尾文子。自動車メーカーの技術部でバリバリ働く美しい彼女は男性社員にとっては高嶺の花。「女がみな結婚したがりなわけじゃないわ」と老舗料亭の女将の京マチ子と語り合ってはいるものの、本心では親が決めた昔馴染みの許婚菅原謙二が気になっている。しかし老いていく父をひとり残すわけにはいかないと、若尾文子は当時の女がふつうに抱いた結婚への憧れを眼鏡の奥にそっと隠して強がるのだった。和田弘とマヒナ・スターズの主題歌が劇中にやたらと流れ、迷える若人の心の機微を束縛している気がしてならない。そのかわりに市川映画ならではの面白さもあって、川口浩のオトボケ君には心があたたまるし、失業手当をもらった父が不二家でケーキを買って帰ってくるくだりのさりげないやるせなさ(娘はそれを散財だと一蹴する)にも心がほころぶ。はじめ、全員が棒読み無表情で機械仕掛けのように演技するのには驚いた。アヴァンギャルドな小津的世界。若尾文子がかける眼鏡は小道具としての主張が強すぎるからこの際どうでもよくって、それよりなにより最初の登場シーンで白いシャツの下に白いブラジャーが透けているのにドキンとしました。

コーネリアスのDVD「FIVE POINT ONE」が改めておもしろい。ディレクターは辻川幸一郎、北山雅和。「コヤニスカッティ」だったりノーマン・マクラレンが入っていたり。遊び心がいちいちお洒落。誰かがやっていそうでいて誰も明確な形にしていない愉快な思いつきばかり。気持ちイイナーと畳に寝転がってみている。