日本海を北上し津軽海峡を渡る旅から戻ってきました。夜行列車に揺られてこりかたまったからだを深夜のホームで体操してほぐし、午前七時に見知らぬ町を散策し、秋田では稲庭うどんを青森ではりんごケーキを函館ではうに鮭丼を余市ではニッカウヰスキーの試飲と赤肉メロンを食べ、峠の鄙びた温泉宿で白濁したお湯に浸かって夜明け前の露天で俗世離れの気分を味わい、数年振りに乗った五能線は楽しみにしていた「リゾートしらかみ」号で、青い水面がふしぎと言われる湖「青池」を見に山を登って下りて、日本海に面した黄金色の露天風呂が魅力の不老ふ死温泉に浸かって手ぬぐいを黄土色に染め、青森の夜の早さに驚き、フェリーの雑魚寝部屋で一夜を明かし、一両編成の鈍行列車でわたしが生まれた羊蹄山麓の景色を眺めてじいんとした。いつか車の免許をとって、山麓の一軒家を借りて春夏の半年だけ住んでみようかと思ったのは車中で読み返していた『富士日記』の至極わかりやすい影響。

札幌駅ビルのシネマコンプレックスで『パイレーツ・オブ・カリビアン』と北野武座頭市』を観た。前者はジョニー・デップを観たさで出掛けてそのアイドル具合と芸達者ぶりに納得しつつも、大衆娯楽として振りきりきれていない甘さを感じた。ジョニー・デップはへんなメイクでも男前だなあ。眼の下に入れた黒いラインが海で泳いでも落ちないウォーター・プルーフ仕様。
座頭市』は早起きして初日初回にみた。勝新座頭市と比べるものではないが、寡黙なたけし座頭市がたまに喋る口調が勝新の物真似なのが切ない。たけしがリメイクしてもこれならしようがないな、というのが正直な感想。いや、このやるせなさはあくまで「世界の北野」の仕事であって、ビートたけし座頭市じゃないからだろうか。「自分からは斬らない」「あくまで三枚目の愛敬あり」「底辺者の強さ」という座頭市の魅力が観られなかったのが残念。いや、これはたぶんに『座頭市』ではない映画で北野武映画として観るべきなのだろうし、その観点でいうならばわたしはどうしたって座頭市贔屓なあまりよい観客ではないのでうまい判断ができない。それを必死で抜いても、脚本のまとまりのなさ、登場人物の散漫さと心情描写の浅さが気になった。つまり、座頭市だけが格好よすぎるのだ。以上。