護国寺のジョナサンで「なぜ文芸坐勝新映画祭では『顔役』を上映しないのか、これは名古屋まで遠征しにいくべきではないか」という話をし、会計を済ませて終電手前の地下鉄に乗ろうとしたところで、百五十八円しか残っていないことに気がついた。市ヶ谷まで行けばその先は定期券がある。しかし護国寺でいま二円が足りない。きっぷ売場の柱の陰に張りこみ、きっぷを買おうと千円札を差し込んだ男の子に近づいて、「あの、十円わたしにくださいッ」と声をかけた。男の子は非常にクールにつり銭から十円玉をつまんで差し出した。ガム、食べますか。じゃあもらっておきます。ありがとうごじゃいます。ホームの端まで走って逃げた。そうだ、なんでも言ってみるもんだ。物乞いだって怖くないぞ。金がないのがなんぼのもんだい。