めくってみる?

htr2006-04-16

もうすぐ雨が降りそうな日曜日の、カフェオレと写真展に至るまでのお話。

財布のなかには四百円。四百円があれば、銭湯で至福の湯かげんをたのしむことはできるけれど、残念ながらイルカッフェでコーヒーを一杯のむことすらできない。本棚の中から漫画を四冊取り出して近所の古本屋に持ち込み錬金。八百円に増えたところでイルカッフェに出かけるも、夕暮れ時のカフェは満席で入られず、帰りみちに出来心でドーナッツを二つ買う。ドーナッツと緑茶、二百七十円分の甘くて苦い時間。さて財布のなかには五百三十円。

夜になってもう一度家を出る。雨はもうあがっていた。イルカッフェの店奥、畳とちゃぶ台のスペースで、ふたりのほろ酔いの女の子が迎えてくれた。まあ、あがってください、おじゃまします。写真家で、pagtasという音楽活動もしているご近所の「りっちゃん」こと坂田律子さんと、アーティスト照屋百子さんの二人展「mekuru」。百子さんの刺繍作品の扉の奥に、律子さんの写真がひらけるという寸法だ。りっちゃんが撮る写真はいつも、あちこちを静かに詮索している。のぞく、や、めくる、という動作にはエロティクスがひそんでいる。キャメラを構えたりっちゃんは、すこしだけ時間を歪ませるすべを知っている。

畳の上ではりっちゃんと西岡由美子さんがラムバックを呑んでいた。財布のなかには五百三十円。ワインもビールも五百五十円。小銭を数え直して今夜はお酒をあきらめる。西岡さんはAmericoというロケンロールなバンドの女の子。以前、Rest of Life というバンドで活動されていたときに、何度かライヴを観たことがある。夕方に食べたドーナッツのお話をしたら、西岡さんの曲に、「Mister Donuts」という愛の曲があると聞いて笑った。

イルカッフェのカフェオレは五百円。財布のなかには三十円。傘をたたんで家まで歩いて帰る。おやすみなさい、日曜日、今夜もあきずによい夢を。

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坂田律子<pagtas> http://www.geocities.co.jp/pagt_as/
Americo  http://homepage2.nifty.com/lulu-san/