modern juice/彼女に会えた?

htr2006-09-04

京都にお住まいの近代ナリコさんが主宰するミニコミモダンジュース(modern juice)」。先日、神保町書肆アクセスで新刊の七号を見つけた。女性下着に「素敵」な要素を取り入れたことで知られる、画家の鴨居羊子さんの名前とお仕事とエッセイのことをわたしが知ったのは、この「モダンジュース」が最初だった。その後も「亜土ちゃん」特集を持って水森亜土さんの取材に出かけ(そこで「モダンジュース」をカメラマンの方に貸してしまってからもう数年、絶版だというのに二度と戻ってこないんだろうなあ)、「お稽古事始」の特集も読み返すたびにたのしい。女子であるという視線、それは今どきの女の子たちが声高に失われたオリーブの聖域を求めるのとはどうにもちがう、なにが違うかって、時代とともに歩んできた「女子」の姿が垣間見えるところではないか。けっして説教くさいものでも古くさいものでもなく、ただ「女の子は鞠で遊んでお裁縫をしてお嫁にいくための準備をしていましょうね」と言われるのが当たり前だった昭和モダン期に、自分なりのやり方で「女の子」になった彼女たちを追っているというところ。もちろん今の時代にだって、自分だけのやり方で「女の子」になり得る少女たちがいるのは知っている。だけれども、そんな彼女になかなか会えない気がするのはなぜだろう(時代のせいにするつもりなんてさらさらないけれど、だからこそ、今そういう女の子に出会うとわたしは一気に惚れてしまうのだ)。穏やかで軽快で朗らかで、ときどきひねくれるだけの甘さを持ちながらも、そう凛とした女の子。「モダンジュース」ではそんな女の子に出会えることがある。ほら、表紙の女の子、東山聡さんという方が描いている彼女、どこかですれ違った気がしないかい?

モダンジュース」七号の特集は「LOOK! COOK! BOOK!」。お料理本の特集。近代さんや海月書林の市川さんによる選書で、辰巳浜子さんや阿部なをさんらモダン期を知る料理研究家の本から、文化出版局のお料理本ソフィア・ローレンのイタリア家庭料理本なんてものまで紹介されている。料理研究家、いまではフード・コーディネイターとも言うらしい女子によるお料理の仕事の数々。小林カツ代さんになりたい女子はいなくても「カツ代がお母さんだったらなあ」と考える女子高生は世にたくさんいると思うし、夫・和田誠さんとの出会いのエピソードからしてキュートな平野レミさんは、二〇〇六年の台所派女子がひとり残らずレミパンを求めるよう魔法をかけている。かつて吉祥寺の「Kuu Kuu」のシェフだった高山なおみさんのエッセイと豪快なレシピは、生活と文化と料理がエコヒイキなしに同線上で愛すべきものだということを教えてくれたし(やっぱり畑をもっていたひとの言うことは、ロハスやらスローライフやらとはちがって、ぐっと信用できるよね)、ほかにも、わたしにはあまり馴染みがないけれど、たくさんの「お料理のひと」と「お料理の本」が紹介されている。

枝元なほみさんのインタヴューを読んでいたら、これが面白かった。きっとふだんテレビや雑誌では言わないだろうことがたくさん引き出されている。かつて転形劇場の役者として大杉漣らと舞台をともにしていた枝元さん。ちょっとね、言うことがおもしろい。のんびりとした口調(彼女が話しているのを見たことも聞いたこともないけれど、文字を追っているとそう思える)で、ドラマチックな物言いではなく淡々と、もちろん背負いも諦観もなく、あっけらかんと言ってのける。
「ある意味、作って食べさせるってことは支配欲だから」
こういうひとことを読めるのが「モダンジュース」だなあとおもう。ちょっといいよね。