不調和の対話

htr2006-09-07

この夏のハタリブックスは営業時間を特別延長。ここ二週間は午前七時開店、一日がひとまわりする直前の、午前四時に閉店。のれんをしまった三時間のあいだにメンテナンスを済ませ、やっぱり宿題と仕事は朝の涼しい時間に片付けていくのがいちばんはかどるわあ、と、強がりを抜かしながらバタバタと東京を駆け回っています。地下鉄ひと駅間の距離をタクシーで移動し、タクシーの中で携帯電話で打合せをし、電車の中でも赤ペンをにぎり、たいていの道路は走って移動し、駅のホームで甘いパンにかじりつき、パソコンに向かって椅子の上にあぐらをかいている日日。キング・クリムゾンにならって(数年前、中野サンプラザでの来日公演、よくわからないまま観たことがあったなあ)、「二十一世紀のなまくら者」を標榜してきたハタリですが、この夏はよくはたらいています。えらいぞ、わたし!

現在校了作業が峠を迎えたナイスな「書籍」についてのニュースは、あと数日後には具体的にここでお伝えできるとおもいます。待っていてね。あ、あの、『コンプリート・ザ・座頭市』も、進行、して、います。こちらもちゃんと書籍になりますのでおたのしみに。

毎年、九月の初旬に「夏休み」をとることに決めていた。実は今年もそのつもりで夏の初めに算段を立てていたのだけれども、予定通りにはいかないのが下心と欲望。机上に積まれていた紙束のなだれに遭い、こころのなかであたためていた行楽計画はすべて流れてしまった。博打覚悟で「ムーンライト信州」の指定席を確保し、仕事の合間にこっそりと路線図をながめていたのだけれども、バタバタしたハタリオフィスから逃げ出すことができず、大糸線は中央線にかわり、温泉の湯煙は近所の弁天湯の湯気にかわった。四日、渋さ知らズの名古屋バージョン「名古渋」に行くつもりでいたのに、当日午後四時になっても新幹線に乗られる気配がない。昨冬に大阪での「西渋」を観て、その場で不破さんと「名古渋、いいですねー」と話していたこと、それを名古屋在住のギタリスト臼井さんが行動に移し、面白そうなキャスティングでステージを組んでいて、アウェイだからこそ観にいきたいなあと思っていたのだ。そうだ、不調和が観たい。音楽は生ものだから、場所がちがう人がちがう天気がちがう気分がちがう、なにか「ちがう」要素が入っていくだけで、多種多様に表情をかえる。用意されたメロディと実際に演奏されて出た音のあいだの距離こそ、幕が開くまで予測できないものであり、不調和だったり不完全なアクシデントを生み出す。
不完全と不調和と未熟はまったくの別物だ。観たかったなあ、と、思いながらも、その夜もハタリオフィスはフル稼働し、「わたし」と「あなた」のあいだにおける「不調和」を研ぎ澄ます作業をつづけているのだった。もう一度言おう、えらいぞわたし!

そして、翌日のマンダラセカンドでの渋さ知らズ劇場は、二ヶ月前とはちがう編成とちがう気分と前日から引きずった旅疲れで、今まで観たてきたどれともちがう渋さ知らズがそこにあった。この日はね、わりと、あら、ジャズやってるなあとおもいました。