人生における指標・越路吹雪

ずいぶん前に録っておいたビデオを観る宵の口。数日前に『次郎長三国志』の越路吹雪のことを思い(わたしの人生の「ある」指標となるのは、いつでも、「越路吹雪のお園」と、『秋津温泉』の岡田茉莉子と、『洲崎パラダイス 赤信号』の新珠三千代だ)、市川昆監督の『足にさわった女』(1952/東宝)を観た。越路吹雪池部良の方。澤田撫松の原作をもとに三度映画化され、これは二度目、市川昆と和田夏十が脚本を書いている。ちなみに三度目、六十年には監督が増村保造、主演カップルは京マチ子ハナ肇。こちらも脚本は市川アンド和田。

越路吹雪が歌いホーン隊が演奏し、幕を開ける映画。スタイリッシュな語り口と映像のオープニング。越路吹雪演じる美しい女スリと池部良演じる若い刑事を中心に繰り広げられる、東海道の特急列車内を舞台としたスクリューボールコメディといったところ。最初はどこかの奥方のような装いの越路吹雪が、途中でうす汚れた農婦に変装するあたりがステキ! 若き池部良の男前っぷりとガテンな演技も高感度大。脇をかためるのは、大物気取りの作家を演じる山村聡、越路の弟役伊藤雄之助の妖怪っぷり、先輩スリの杉村春子の母心、行商老婆役の三好栄子ら。彼らがかもし出す「異物感」が映画に濃い味をつけている。また、越路吹雪演じる女スリがずーっと根に持っている「復讐」と、その復讐が消化されるシーンでの無常観がなんともいえない深さがあり、ただのオシャレシネマではない面白さがある。が、なんだか越路吹雪のキレが甘い、彼女の用い方が惜しい気がしたのだ。脇役が自由自在に演技しているなかで、いまいち越路吹雪だけが抜け切れなかったような映画。