Y氏の月曜映画誌 サイレント・クラウンの栄光と憂鬱

大学生の夏休みが終わり、何度か月曜日を逃し、ひさしぶりに学習院大学へ。月曜日の午後六時から、大学西二号館の五〇六号教室で、山田宏一さんが映画誌の一般公開講義を行なっているのだ。数年前、青山学院大学の学生向けの授業(そのときは月曜日の午前中の開講だった)にもぐりこんで、いままで文章で追っていた山田さんによる映画紹介(映画論ではなく、もっぱら貴重なフィルムを映写するばかりだ)を耳にしてから数年目、今年はこの学習院大の講義だけとなった。月曜日の夜はできるかぎり用事を入れず、紙とペンと眼鏡を持って目白に行くことにしている。

今回のテーマは「ハリウッド喜劇王」。バスター・キートンハロルド・ロイドダグラス・フェアバンクス、デブ君(ロスコー・アーバックル)やベン・ターピンなど、サイレント・クラウン(「コメディアン」という言葉が使われるのはチャップリン以降だとか)がバタバタと画面を駆け回る。マック・セネットはキーストン社を設立したプロデューサー。喜劇王チャップリンを見出したのも彼。このマック・セネット自身がコミカルで体当たりな映画人。映画館にやってきて、スクリーンの中の出来事を現実と錯覚していちいちオーバーアクションで驚く観客を演じている彼が面白かった。キーストン社のマック・セネットが本人として出演している映画では、事務所になぜかライオンがやってきて大騒ぎ。そんななかで淡々として笑いをとるマック・セネット。スクリーンに水着美女を登場させて「ハレンチだ!」と騒動を起こしたのも彼の仕業。

Y氏の短い講義のあとに上映された映像は、ロバート・ヤングソン製作『シネ・ブラボー!』(1974/英米)の一部分。「第一部 最初の最初に映画」では映画創世記のあの列車が到着するわくわくする感じを、「第二部 スリルと笑いの日々」ではモンティ・バンクスの『無理矢理ロッキー破り』を。この『シネ・ブラボー』、日本語版のナレーターは小沢昭一さん! 構成は山田宏一氏。日本ではお正月映画で封切になり、数日間で幕を閉じた、のだとか。教室ではほんの10数分の上映だったと思うけれど、わかりやすく面白かった!

日本ではエンケンがそうだったわけだけど、喜劇王と呼ばれるひとたちの頭の回転の速さと体当たりの豪快さは本当にすばらしい。ドタバタだけではなく、チャップリンの『黄金狂時代』のロールパンでダンスを見せるシーン、キートンが何千人もの女性に追いかけられる『セブン・チャンス』と何千人もの警官に追いかけられる『キートンの警官騒動』、目の前で嵐の中で家がバタンと倒れるも間一髪で助かる『キートンの蒸気船』のあのラスト、ロイドの『要心無用』での本人がビルにぶら下がるハラハラ感といったら!

世の中で「名作」といわれているものには、尋常じゃないほどのサービス精神と芸達者たちによる真面目な努力があるのだなあとあらためて感動。ウム、いまの気分はキートンだ、キートン、たくさん観直そうっと。

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