『愛のお荷物』の時代

その題名からしてずっと観たいと願っていた、川島雄三監督『愛のお荷物』(1955/日活)。特集上映などでずっと観逃してきたのだけれども、幸いDVD化していたので、正月気分の名残で床に転がって観た。「戦後、日本の人口は増えすぎてしまった、受胎調節を促すための法案実現が必要だ」と熱弁を振るうのは、山村聡演じる新木厚生大臣。これ以上バカスカ人口を増やさないために、夫婦には正しい子づくりの方法を、独身の青少年には正しい性教育を、と大真面目な顔で仕事をしている大臣が突然の出来事に大ピンチ。新木家の子どもたち(三橋達也東恵美子、高友子)が次々とオメデタで、しかも四十八歳になる妻蘭子にまで妊娠の兆しが! 大臣の地位危うし!

「熟年夫婦の性生活」「不妊問題」「できちゃった結婚」なんていう、現代ではややナイーヴな社会問題(でありがらも格好のゴシップネタとして語られる類の)が、いともあっけらかんと明るく描かれている。出てくる夫婦、カップルがそれぞれに怖いもの知らずで、魅力的。話の筋は無邪気でバカバカしいのだけど、荒唐無稽なムチャはないソフトな風刺喜劇。京都の金持ちボンボン役にフランキー堺(ドラムを披露するだけのわりともったいない役柄)、小ネタを撒きながらスクリーンをにぎわす秘書官役に小沢昭一(やっぱりこちらもすこしもったいない)、この後の川島映画の常連となる両氏は実はこれが初登場。轟夕起子が商家の奥様としての保守的な姿を演じ、山田五十鈴が古き時代のしっとりとした京女を演じる。物語を牽引するブレーンとして活躍する聡明なお嬢さんに北原三枝。周囲の妻、娘、愛人、恋人に引っ張られるのはいつも男性。女が強く賢くしたたかで、男が情けないことがハッピーエンドにつながる、正しい娯楽映画。じいちゃん役の東野英治郎が小芝居をうったときに、孫娘役の高友子が、「あら上手ね、東野英治郎みたいよ」と言うのがおかしい。五十年代の勢いを増してきた日本、団地が建ち並ぶ賑やかな様子と、その一方に残る佃あたりの長屋の風景の両方に、生活のにおいを感じられる。時代の風景としても楽しい映画。川島雄三の映画は、その時代の生活の匂いがしっかりと感じられるから面白い。

愛のお荷物 [DVD]

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