鬼頭 哲 ブラスバンド at ザムザ阿佐谷

鬼頭哲ブラスバンド、ザムザ阿佐谷でのライヴ&ワークショップ、無事に終了しました。ご来場いただきましたたくさんのお客さま、ありがとうございました。ゆかいでおかしな【昼の部:ワークショップ】と、熱気と迫力にあふれた【夜の部:ライヴコンサート】、昼夜それぞれの表情がなかなか面白かったと、手前みそながら思います。

 

鬼頭ブラスでの東京公演は二度目。前回は昨年六月のDVD発売記念で新宿ピットインでのライヴでした。そのライヴが予想以上に反響が大きく、すぐに次を考えることになりました。杉並を散策していたリーダー鬼頭が「ザムザ阿佐谷みたいなハコでやりたいねえ」とつぶやいたのをきっかけに(ずいぶん前に、東京中低域でもザムザ阿佐谷でライヴをしたことがあったそうです)、そこから企画者ハタリの仕事が始まりました。三十人近いメンバーのスケジュール調整をし、電卓を叩いてツアーの予算を出し、ザムザの方にお会いして打ち合わせをし、書類や企画書をたくさん書き、文化助成の申請をし、ヨーロッパツアー中の鬼頭とメールのやりとりをしていたのが、夏の盛りのこと。些末な作業から大雑把な決断まで、本公演にまつわるいろいろなことをしてきました。もちろん音楽やバンドの舵取りはリーダーであり作曲家である鬼頭の領域であり、わたしが手を出す部分はそれ以外のエリア、バックヤードのあれやこれやです。

今回、ライヴリポートのページに「おまけ」を作ってみました。
【鬼頭ブラスのライヴができるまで ザムザ阿佐谷篇】

 
 


さて、わたしがこのバンドに関わることになったのは、音楽関係の制作志向が高かった時期と「世話焼きお母ちゃんマインド」とが化学合成した成り行きなのですが、鬼頭ブラスという音楽と付き合っている目的のひとつに「この音楽を世界各地で聴けるようにしよう」というたくらみがあります。固定ファンも多くなった名古屋とはちがい、「はじめて」のお客さまばかりを相手にするという、アウェイ感の強い東京公演。地元名古屋でももちろんそうなのだけれども、東京では特にいわゆる「ブランディング」に慎重になります。バンドの本質である音楽を最良の状態で表現するのが鬼頭をはじめミュージシャンの仕事だとしたら、わたしの仕事は音楽以外での「鬼頭ブラス」を作ること。そう、たとえばこの会場選びも含めて「鬼頭ブラス」であると思うし、そうでなければバンドに「企画」なんていうポジションはいらないよなあと思うのです。

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さて、ここからは、冷静に感じる「裏方仕事をするワタシ」の現状のハナシ。

この春で二年。これまでにウェブサイト作成、プレス業務、スケジューリングなど、そこそこの交通整理や農地改革をしてきたという自負はある。コンサートの企画・運営・あと片付け、DVDのリリースなど、過去の乏しい経験値とあまり豊かでもない想像力を駆使してこれまで切り抜けてきた。ほぼゼロからシステムを確立させてきた「制作業務」も、協力的なメンバーやスタッフにようやく少しずつお任せできるようになってきた。ただ、やはり冷静に現状を見てみると、労働量として個人のレベルでは補えないことや、能力的にわたしに足りないことが多い。それにいくつかの大きな課題もある。「音楽を作る人」の絶対領域には踏み込むつもりはないと決めていたがゆえ、作業分野についての矛盾も生じているし、音楽業界とそれ以外(出版や編集)における「プロデューサー」に語弊があることに気づいたのも最近のこと。単純に、音楽ビジネスや音楽マネジメントの知識や経験が少ないとも感じてもいる。もっと掘り下げていくと、わたし自身の興味関心の問題や、信頼関係の有無にもぶつかってくる。それは今後、バンドの活動規模が大きくなるにつれて、もっと目に見えてくる課題となるだろうなと冷静に感じている。

ただ、舞台からあのメロディが鳴り響き大きなエネルギーを生み出した瞬間、その音楽に触れた人びとの姿を見ていると、この音楽の一端に関わっているということはわたしに誇りをもたらす。それがあるからやっているのだろうなあと思う。それはわりと幸福な気もちだ。

ザムザ阿佐谷での公演が無事終わり、阿佐ヶ谷で打上げの乾杯も済ませ、朝駆けノリウチだったメンバーとたくさんの楽器を乗せた車が名古屋へと帰っていくのを見送り、午前一時に環八沿いのリンガーハットでちゃんぽんを食べ終えたところで、長かったわたしの「夏」がようやく終わりました。つい一昨日には大雪が降ったっていうのにね。

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次の公演はどうしようか、ツアーでどこにいこうか、CDのリリースの準備はどうしようか。バンドは船みたいなもので、俺は船長みたいなものだ、と言ったのはリーダーだ。じゃあ、わたしは機関長といったところなのかしら。何にせよ、この船の到来を待っている港がある。そして旅はつづく。ああ、旅みたいなものなんだねえ、音楽の仕事は。ただ、目的地だけははっきりさせておかなくちゃいけません。

そんなわけで、今回も一緒に楽しんでくれたお客さま、出演者/関係者のみなさま、舞台関係の働き者のみなさま、どうもありがとう、また一緒にあそびましょうね、よろしくどうぞ。

【鬼頭 哲 ブラスバンド】