トーキョードリスガールズ、始動

どこかの映画館のスクリーンで、わたしがルノアールに出会った数年前から、そして今年の正月に得た何度目かの興奮をきっかけに、こっそりあたためていた通称「ハタリ・カンカン」プロジェクト。本日無事に立ち上がりました。「トーキョードリスガールズ」号、進水の報告です。

やけに早く目が覚めて、早朝からオッフェンバックの「天国と地獄」をはじめとした音源を延々とリピート。朝の七時からすでに全身全霊カンカン一色。しかし「フレンチ・カンカンを踊るのだ!」なんて宣言したものの、誰も遊んでくれなかったらどうしようと、内心ずっとハラハラしていた。旅行用のキャリーバッグにひらひらの衣裳(パニエ付きスカート)を二着ぎゅうぎゅうと詰め込んで、音源とパソコンとスピーカー、映画『フレンチ・カンカン』やムーラン・ルージュでのショウ映像のDVDなどを鞄に詰めたら、ちょっとした旅行に出かけるくらいのヴォリュームになった。井の頭線に乗って、杉並区のパリまで小旅行。わたしのなかのムーラン・ルージュ、正面の風車がゆっくりと回りだした。

午後六時、杉並区の体育館で稽古開始。なんと初日にも関わらず、四人の女の子が参加してくれた。まずは小一時間、じっくりとバレエやヨガをベースにしたストレッチでからだを緩める。初めて会う女の子ふたりと、距離を縮めていく時間。その後、床に寝転がりながら『フレンチ・カンカン』のクライマックスのダンスシーンなどを観て、踊りたいカンカンのイメージを再認識。映像に興奮した勢いで、稽古用のひらひらの衣裳を身につけて、跳んだり転がったり脚を上げたり踊ったりと大いにはしゃいだ。側転や倒立が得意な子がいれば、ジャンプやターンが得意な子もいる。ここでまず大事にしたいのは、「姿勢」と「笑顔」と「テンション」を共有すること。もちろん目指す先は外に向けた「表現」であり、幸福にあふれる「大衆娯楽」だから、これから必要なテクニックや演出は山積みだ。今日は実に原始的な時間だったとは思う。だけど、わたしのなかでは、何かが走り出した決定的な時間でもあった。このワクワクをどうしよう、ええい、世界に向かってまるごとサンキューと叫んでしまえ!

ずっと遊び場がほしかった。いや、今までだって、遊び場はいつでもそこにあった。バスケットボールのコートも、空手の道場も、バンドで演奏するコンサートホールも、ポンと飛び込めばいつだってわたしはその遊びに夢中になれたし、先輩や仲間がときにやさしくときに厳しくわたしを育ててくれた。だけど、自らその「場」を生むということをしたことはなかった。ハタリブックスをはじめ、何かを立ち上げるときはいつも個人レベルだった。自分の両手を広げる範囲でできる安全な遊びばかりだった(ハタリブックスに関しては、安全なのかどうかわからないときもあるけど……)。でも、そうなのだ、カンカンはひとりじゃ踊れない。わたしはプロフェッショナルなダンサーでもない、ただの踊りたがりの女の子にすぎない。にも関わらず、このギャンブルに乗ってくれた女の子たちがいて、そして、今回の立ち上げにあたっていろんなひとが応援してくれている、それはなんて幸福なことなのだろう!

ジャーン! 鳴り響くファンファーレ。なにかがはじまる瞬間っていいね。恋をしているみたい。恋は期待に満ちてはじまり、たくさんの試練をわたしに課す。

「トーキョードリスガール・プロジェクト」、それは小さないかだのような幼い舟だけれども、海に出てしまったからには後ろを振り返らずに漕ぐほかなしなのだ。幸い、前に広がる景色やまだ見ぬ空が楽しみで、身体の疲れの限界にバッタリと倒れるまでは、誰の命令でもなく自分の希望で漕ぎ続けることになるだろうと思う。あまたのやりたいことを整理したら、文章書きと、仕事と、クラリネットと、カンカンが残った。つまりそういうこと。


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「トーキョードリスガール・プロジェクト」、今後の稽古予定は以下の通り。会場は屋内体育館です。会場などの詳細に関するお問い合わせはinfo☆hataribooks.net(☆→@)までお気軽にどうぞ(参加は女子に限ります)。

【7月】19日(土)、26日(土)/18:00〜21:00/杉並区・高井戸
【8月】09日(日)、17日(日)、24日(日)/18:00〜21:00/杉並区内・西荻窪