おぼつかない日/音楽家が解読する映画音楽 5夜

午前六時半に飛び起きて、いちもくさんに洗濯機をまわし、そのままやや冷たいシャワーを浴びてオカッパ頭を洗うと、右中指のつめがひび入っていた。キャッと水から飛び出て、台所でかたゆでの玉子をつぶし、玉ねぎを刻み、てりやきソースの王様ぶりに感心し、食パンを重ねてまな板を重石にしたところで、洗濯機がピーピーと洗いあがりを告げ、中指に気をつけながら濡れたシャツやタオルを引っ張り出し、ベランダに干すと、オハヨウと朝顔が一輪咲いていた。ほっとこころが油断する朝のひととき。昨夜の雷雨のせいか、空気が澄んでいる。きっと正午には蒸し暑くなるのだろう。

電車を乗り継いで着いた先は夏。コーヒーショップでカフェラテを頼む。紙袋に入れようとする店員を制して、その場でストローを差して店を出たら、透明プラスチックのカップがぐにゃりと曲がって全てをぶちまけてしまった。アスファルトの上に流れていくカフェラテ。あぜんとしていたら、店員の男の子がタオルを握って走ってきてくれた。もう一度いれてくれたカフェラテを今度は紙袋で受け取り、男の子にお礼を言って、逃げるように小走りで、点滅する青信号を渡る。五本の指をぐにゃぐにゃと動かし、じっと見つめる、無言の言い訳。

週末のバレエのバーレッスンでおかしな感触で踏んでしまった右足の親指、ちょっと考えごとをしながら階段を登っていたらサンダルが引っかかってベシャリと前に転んだ。さらに増す不吉な衝撃。そっとのぞいてみると、無言、机のうえのセロファンテープを小さく切ってこっそりと、ぺたりと貼る。

目測を誤りカーブをかなりのインで曲がろうとして二度ほど骨盤をぶつける。ことばなんて出ない。そして、じゃあまたね、とドアを閉めようとしたら左手の中指を思いっきりはさんだ、午後十一時半。帰宅とちゅうに猫をなででようと思うも、さいきんはやっぱりあの場所にいない、じっと右手を見ると、人さし指のつめがななめに欠けていた。こういうことですこし落ち込むところがわたしの女子を司る部分で、二歩先では「いっそ全部つんだろか」と思うあたりがわたしの前頭葉の任侠領域なのだと思う。

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そんなおぼつかない日日を過ごしているために、せっかくの興味深いイベントももう前半は過ぎてしまったけれど、後半が残っているのでお知らせしましょう。全日程、聴き手は岸野雄一さんだそうです。数日前に岸野さんからお知らせをいただきました。

楽家が解読する映画音楽 5夜「音と映像の作用/反作用」 
2008年7月29日(火)〜8月2日(土)(5日間) 会場:アテネ・フランセ文化センター(御茶ノ水
http://www.athenee.net/culturalcenter/program/ongakubigaku/ongakubigaku.html
現代を代表する5人の音楽家が日替わりで登場し、自選の作品を上映します。上映後に、その作品のみならず、広く音と映像の関わりについて論じます。

■上映スケジュール
7月29日(火) 17:00〜上映(16:15開場) 19:30〜講演 大友良英(ミュージシャン)
切腹」1962(133分) 監督/小林正樹 音楽/武満徹

7月30日(水) 17:30〜上映(17:00開場) 19:30〜講演 菊地成孔(ミュージシャン)
「はなればなれに」Bande à part 1964(96分) 監督/ジャン=リュック・ゴダール 音楽/ミシェル・ルグラン

7月31日(木) 17:30〜上映(17:00開場) 19:30〜講演 ジム・オルーク(ミュージシャン)
「ウィークエンド」Week-End 1967(104分) 監督/ジャン=リュック・ゴダール 音楽/アントワーヌ・デュアメル

8月1日(金) 17:30〜上映(17:00開場) 19:30〜講演 上野耕路(ミュージシャン)
悲しみよこんにちはBonjour tristesse 1958(93分) 監督/オットー・プレミンジャー 音楽/ジョルジュ・オーリック

8月2日(土) 16:45〜上映(16:15開場)
18:30〜講演 鈴木治行(ミュージシャン) 「マルグリット・デュラスのアガタ」Agatha et les lectures illimitées 1981(86分) 監督/マルグリット・デュラス 音楽/ブラームス

ああ、ゴダールの『ウィークエンド』、ひさしぶりに観たいなあ。この映画のジャン=ピエール・レオーは、わたしのなかのレオーくんランキングでもかなり上位にあります。数日後にやってくるウィークエンドには、わたし、ここ三ヶ月間の辛抱を経てひさびさの旅にでるのです。いまのわたしに足りないものは何かしらと考えて、すぐに浮かんだ答えは「水と緑と鉄道!」。八月の時刻表は夏の臨時列車が多くて面白いねえ。