−−午前一時のミスハタリ。森崎東『黒木太郎の愛と冒険』(1977/馬道プロダクション+ATG)。北国育ちにとって物心ついたときから田中邦衛は黒岩五郎あるいは「愛ちゃん」の小父さん(ストーブのコマーシャル)なのだが、野坂昭如かと見紛うサングラス姿でジープを乱暴に運転するさまは非常にいかした男前。しかし車を降りれば訥々とした喋りと優しさと情けなさが同居した目つきは拭えない田中邦衛のままなのでついついほっとする。共演者は財津一郎伴淳三郎小沢昭一清川虹子ら愉快な面々。緑魔子が奇怪な役どころでしかもペロンと脱ぐのがなにより面白い。終盤になって映画が抱えるテーマが壮大になっていくあたりが森崎東の映画らしいという感想。
−−午後十二時のミスハタリ。緑魔子のゆるい貞操観念に惑わされている場合じゃない。「由美かおるの唐突な脱ぎっぷりにこそびっくりなのよ!」と言っていたのは名古屋からいらしたお姉さん二人組。カフェランチしながら映画の話を聞き、そのままアップリンクの「ユーロトラッシュ不法集会リターンズ」へ。ドキュメンタリー風に金髪女子の性風俗をリポートするという(ドラマ部分がとても愉快)「女子学生マル秘レポート」を観て、エロと小ネタにほがらかに笑う。有象無象あふるる映画の世界、お愉しみは気が遠くなるほどたくさんある。
−−午後六時半のミスハタリ。今日はセッションをしましょう、と誘われてピアニカ持って歩いていたのに段取りがルーズでバラされてしまう。仕方がないのでブックセンターで本を買い込み(『すてきなあなたに』の四巻が出ていました)、山手線にのって池袋へ。新文芸坐で「名匠成瀬巳喜男の世界」。客席でサザエのおはぎをつついてから『放浪記』(1962/東宝)。林芙美子の自伝的小説を演じる高峰秀子のいやしくも貪欲な笑顔のすばらしさ。生き続けるのは逞しさなのか諦めなのか、たぶん両方であってそのときどきに表情をかえるだけなのだろうな、と、貧しくて男に捨てられるみじめさを味わいながらもささやかな喜びに全霊を傾ける女の姿にうめきが漏れた。
−−午後八時四十五分のミスハタリ。帰ろうか迷うが帰ったところで何の用事もない日曜の夜。そのまま席に座って『浮雲』(1955/東宝)を観る。二度目なので話の展開も知っているけれど、やはり森雅之演じるだらしない男がふと歩みを止めて「水虫がいたむんだ」と言うシーンの絶妙な感覚。男と女のあいだには深くて暗い溝があるのだ。