新文芸坐にて「成瀬巳喜男映画祭」。今日の目当てはずっと愉しみにしていた『石中先生行状記』(1950/東宝)。リンゴ園の娘に惚れた青年が彼女に近づく口実に「あの畑のなかに戦時中に埋めたガソリン缶が埋まっている!」と嘘をついたり、町に「裸レヴュー」の興行がやってきててんやわんやの騒ぎになったり(杉葉子が「お父さん、ペチャンコになるかしら!」と言うのがすてき)と、青森の田舎を舞台に朗らかで健全な若人たちの恋愛模様を石中先生(宮田重雄/特別出演)がやさしく見守るという三篇オムニバス映画。なにより愉しみにしていたのは、東宝第一期ニューフェイス三船敏郎と若山セツコ(セツ子)が共演する「干草ぐるまの巻」。うっかり間違えて三船が引く干草ぐるまの上で昼寝をしたもんぺ姿の若山が三船の家に辿りついたことから恋心が芽生えるという暢気な話。天真爛漫な若山と無口で照れ屋の三船のやり取りがとても愛らしく観ているこちらがくすぐったくなる物語。だって三船が! 二人が盆踊りに出かけたところを冷やかしてきた悪友たちにどなったり、若山の大きな笑い声に釣られて不器用にニイッと笑ったり、風呂上がりに若山を意識して髪の毛をピターと八二分けにしてきたり、「ぎゃー、かわいいッ!」ともだえるポイントが随所にてんこもり。対する若山セツコは童顔な上にミニサイズなので「十九よ」と言おうとも十二、三の子供にしか見えない。冒頭、姉に「おらに百円よこせ、ケチ!」という津軽訛りがグッとくる。ベスト・オブ・もんぺ女優のリスト更新。そして二人は唐突に「青い山脈」を唄い出すのだった。「俳優三船敏郎」の魅力が活かされていないといえばそうかもしれないが、子供みたいな若山セツコに「気の利いたことしゃべれ」とつつかれて苦笑する巨体の三船というのもまた堪らない。いかんせんミーハーなもんで。