曽根中生『唐獅子株式会社』(1983/東映)を観ました。小林信彦の同名小説に惚れこんだ横山やっさんが「これ主演でやりたいンや」と脚本家笠原和夫のもとに持ち込み(結局笠原は脚本ではなく構成という形で参加した)、お正月娯楽映画として売り出された芸人アイドル映画。白スーツでキメたやっさんが三年ぶりに娑婆の空気を吸ったときには、親分丹波哲郎の思いつきで組は「株式会社」に名前を変え、グラビア誌の出版やビデオ制作(男優に明石家さんまが登場)、果ては新人アイドルのマネージメントに乗り出していた。なにせ予告篇のコピーが「この映画は八十四年の正月映画でR」ときたものだから早々に腰が抜けた。「R」って。むかし少年サンデーで連載していたゆうきまさみ漫画の『あ〜る君』も八十年代だったか。はてさて、横山やすしが血管浮きあがらせて頑張るのを、桑名正博(セクシャルバイオレットNo.1)、伊藤四朗丹波哲郎らが囲み、なぎら健壱阿藤海島田紳助、安岡力也、小野ヤスシらがチョイ役で出没する。キャストの贅沢さゆえか、笑わせたいのか切なくさせたいのかその意志がやや散漫で底抜けな喜劇と呼ぶにはいささか消化不良。オープニングの二重構造は加速も順調だし、恋に悩むやっさんの独り言(「惚れた女となんでヤレないんだ!」)のシーンには思わずじんとするのに、その対象である甲斐智枝美が出てきた途端に心理描写が開けっ広げになりすぎて気持が萎えてしまう。そう、どこまでも際立つのはやっさんの可愛らしさ。これに尽きる。