htr2003-07-21

夜が明けても雨。午前六時に健康ランドをあとにする。飯田の地図は縮尺がいいかげんで、すぐそこにあるはずの駅まで三十分以上歩き続ける始末。農業高校の横を歩くと堆肥の匂いがぷうんと流れた。無人駅のホームから手動の扉を明けて飯田線。重たい曇り空から雨が降り続けていて残念ながら南アルプス天空の湯殿「小渋温泉赤石荘」へ行くのを諦めた。寝たり本を読んだりチョコレートをかじったり舐めたりしながら四時間が過ぎ、列車は甲府に到着。はじめての山梨だし、ご当地名物でも食って帰るかあと駅前の店に入り熱いほうとう鍋のカボチャや里芋を頬張っているうちに空が晴れ渡ってしまった! ガッデム!と拳を握りしめるもまた四時間かけて長野に入るのも気が遠くなるし今夜中に吉祥寺に戻れなくなるのでやはり諦め、武田信玄武田神社にでも参詣してみるかと思ってみたものの親しみがあるのは戦国時代より温泉なわけで、結局土産屋で「信玄餅」を買うだけにとどめて甲府を去る。数駅上がって勝沼ぶどう郷で下車。「ぶどうの丘」というぶどう園やワイナリーのあるところに「天空の湯」という町営温泉が湧いているというので行ったのだ。お湯はさらっとした肌触りの至極平凡な透明湯ではあるが、丘上の露天風呂から眺める盆地と山脈の景色の清々しいことといったら! 全裸で仁王立ちして眺めれば目下のぶどう畑とビニルハウスはわしのもの!という愉快な気持になる。山の上には濃い青空に白い雲が浮かび夏休みの到来を早々に告げていた。わたしは町営温泉がすきだ! 温泉ホテルの日帰り入浴にはない魅力(安さと簡素な清潔感と地元色)が大好きだ! 帰りには地元のオバチャンが煮詰めて瓶詰めしたジャムなどを買うのだ! 湯上りそのままでぶどう畑を眺めながら駅に戻り、満面の笑みで中央線。飯田吉祥寺往復で終わるかと思った旅路にぶどう色のオプションが加わった。大満足。これで早々に「青春十八きっぷ」の二日間が埋まった。地味だけどたのしい夏のはじまり。財布の残金は六百円。

と、焼酎に梅シロップを入れてサイダーで割ったものを呑みながら、この顔が赤いのは日に焼けたせいかそれとも酒酔いのせいかとわからずに幸福な気持ちでふとんに寝転びながら旅の記憶を反芻しています。酔っていたから今日はめずらしく「!」が多いのです。