宵の口に豚角煮を煮込んで、雨の夜はどこにも出かけずにビデオ鑑賞。マキノ雅弘次郎長三国志第九部 荒神山(前篇)』。石松死んで、弔い討ちに出た大政以下は仇の首を狙いつつ山篭もり中。喧嘩出入りの際に百姓の家に火をつけたという濡れ衣をきせられて、冒頭から落ち込み気味。百姓にマゴコロを見せて見舞いを出し、山を下って次郎長のもとへワッショイワッショイと駆けていく。小政が「瞼の母」に会いに行くシーン、次郎長からの勘当を受けて子分たちが興奮するのを大政が説得して「俺だって会いたいんだよ…」と涙ぐむ姿、そして次郎長との再会……、この泣かせるところは惜しみなく!というセンチメンタルな心情描写こそがマキノ節のすてきなところ。また、その一方で、ワッショイワッショイと声を上げながら一家が斬り込んでいく賑やかな喧嘩シーンや、毎度流れる虎造節(前篇では廣澤本人演じる張子の虎は登場せず)、画面いっぱいを群集が埋め尽くして左右に揺れるようにわらわらと動くロングショットなど、娯楽映画として安心できる要素がたっぷりとある。黒駒の勝蔵が腹黒い笑みを浮かべ、ひとの良い顔をした千秋実の登場できっとまたなにかが起こるぞと期待が高まったところで前篇終了。この前篇でシリーズ制作が打切りになったため、山場に入る前に不意と終わってしまう尻切れ作品ではあるが、劇場での特集上映でも公開されていなかった第九部をようやく観られて大満足。この次郎長三国志シリーズをきっかけに時代劇にはまり出したわたしにとってはここがホームグラウンドなのだ。うれしい。また第一部から観たくなった。次の機会を待ちながら今夜は廣澤虎蔵のレコードでもかけて過すことにしよう。