電車にのって居眠りしていたら、終点についたときに赤い服をきた小母さんがわたしを覗き込んで「終点よ」と言ってくれた。ひとの温かみにふれた日。喉がイガイガするこんな日はトックリセーター解禁日。あたたかいココアを買って遅刻するのもこんな日だから。それから井上光晴の『死者の時』(中央公論社)を古本屋の百円セール棚でみつけた日でもある。ひとつの無念を挫折ととるか無縁ととるか、後者を選んだのは自己保身だろうかと三秒ほど悩んだ日でもある。