バウスシアターでピエール・バルーのフィルムフェスティバル「サラヴァの夕べ」。世界のすてきな高齢さんに会いに行く企画ドキュメントの四本立てだ。『時と時刻』では緒方拳と写真家ロベール・ドアノーの幸福な三日間、『ムッシュ・スズキ』では青森に住む彫刻家の鈴木さんと出会い、その村で行われていた「キリスト祭」(これはいろいろツッコミどころが多いが、きっと笑うべきではなくって、信仰が地域交流になった美しい例なのである)で流れていた婦人会音頭に魅せられたピエール・バルーがフランス語の歌詞をあててカヴァーする。最後に観た、『キュイジーヌ・ア・ラ・パイザン』がじんときた。代々木駅前の一角に時代に取り残された小さな小さなフランス料理屋(らしき木造建築)があって、いつも閉まっているその店に興味をもったピエール・バルーが、一年半かけてその持ち主を探し、ついに九十歳近いミノヤ氏と出会う。ミノヤ氏は上海で育ち、親に捨てられ、戦争でインド海に浮かぶ小島に取り残され、戦後に日本にやってきたという。ミノヤ氏は英語と日本語で会話する。過去を語り現在を語るその眼はきらきらと輝いており、その無邪気な大人ぶりにピエール・バルーはひと目ぼれした。四作すべてに共通しているのはこの大人たちの眼の輝き。出てくる人々がみんなかわいい。そしてなにより、スクリーンの前で通訳役をつとめる愛娘と掛け合い、ギターを弾いて唄う彼はとてつもなくキュートだった。