道玄坂をのぼっていく途中、赤い舌を出したねずみが細長くなって死んでいた。またいで数歩あるいてからなんとなしの懐かしさを感じた。飲食あるいは暗黒社会に関わる商売をしていないかぎり、東京の道端でばったり死体に遭うことが滅多にないからなあと思いながら、百軒店のアーチをくぐって円山町。今夜はNestで、OZ DISCとOUT ONE DISKの対決ライヴ。田口さんのバンド「1」では、暗幕に遮られた部屋に波が押し寄せたり照り返しのつよい真夏の路地裏になったりした。スクリーンはどこにもないのに景色が浮かび上がるような音楽。「岸野雄一スモールコンボ」のショウでは、岸野さんは真っ当な喜劇役者なのだなあと改めて思った。とんでもなくポップかつかっこいい。マストロヤンニにしても伴淳にしてものり平にしても、すばらしい喜劇役者は「二枚目」でも「性格俳優」でもあるわけだ。ロベルト・ベニーニなんてイタリア人、あいつのしたり顔なんてぽこんと蹴飛ばしてやっちまえ! 「あらかじめ決められた恋人達」は前回ロサで観たのと同じように安定した演奏。ダンサブルな打ち込みと純朴なピアニカの共演、わたしがすごくいいなと思うのは泣きのメロディが心を突いてくるからだろう。同じく大阪からやってきたオオルタイチ、レコードをかけながら気持良さそうにマイクを握って唄っていた。こんな柔軟なDJがいるクラブならひさしぶりに夜通し踊りにいきたい。最後は魅惑のギタリスト対決で、オズからは倉地久美夫さんの弾き語り。昨日受けたショックにはだいぶん慣れたもののこの気持ちよい驚きをまだうまく説明できない。すばらしい言葉と声と音のバランス、ほかの誰かが真似をしようもんならぜったいに安っぽいものになるのがオチだ。アウトワンからはウンベルティポ。久しぶりのライヴといっていたが、迫力迫力。
とても面白い五時間だったが、最初から最後まで床に直に座っていたのでお尻がすっかり平らにつぶれてしまった。「あなたがたが、ここに来るまでにしていたこと、そこから今日の音楽は始まっていたのです」。わたしはピーマン入りのハンバーグの味を思い出し、頭に浮かんだできそこないのメロディを鼻で唄いながら帰宅。