予定がなければ作ればいい。財布に五千円札を一枚しのばせて神保町へ。青空古本市に出かけた。あのベチャーっとしたハンバーグが食べたいと「さぼうる2」を目指す道すがらにすでに二冊。食後に五冊。二百円か三百円のものしか買っていない。私にとっての掘り出し物は他人にとっては全く興味の沸かないものだったりして、隣のおじさんが抱えている本の著者を私は知らないで過している。だからここにはこんなに沢山の古本があって沢山の人が別々のものを買おうとしているのだな、と、目の前で起きているなんてことない現象を哲学に挿げ替えようとしたところでゲームオーヴァー。八冊目の本は重たくて持てなかった。
お茶の水から中央線に乗って吉祥寺へ戻る。友人の西永福さんが喫茶ボアでお茶をのんでいるというので店を覗いたら、彼女は「日経WOMAN」を膝の上に乗せながら「檜原村、よかったよ。数馬の湯もなかなか」と喋った。ボアの営業時間が夏に比べて四十五分早まっていた(十一時〜十九時)。駅前の映画館で『キル・ビル』を観た。場内は七割ほどの入り。「ヤッチマイナ」あたりで皆笑うために来ているのかなと思っていたのに予想外にシンとしていたのが不思議だった。何がもっとも印象に残ったかというと、それは最初のシーン。傷つき歪んだユマ・サーマンの顔のアップが不快感から嫌悪感を呼び込むちょうど寸前のところでカットを切り替えた、その感覚がこの監督が持つ凄いところではないかと思った。知識を蓄積すれば感覚が身につくという心強いお話。