車の往来がほとんどない、やたら幅広い道を走っていた。午後六時。あたりは暗く、天球をのせたいやらしい形をしたテレビ局の建物がライトアップされていた。ここが最寄駅ではないと気づいたのは駅前のバス停を過ぎたあとだった。もう遅い。いそげいそげ。ちくしょうちくしょう。早足でズンズン進んで角を曲がって歩いていたら、女の子に声をかけられた。「あの、未来科学館って船の科学館とは…」「ちがいますよ」「未来科学館って?」「あ、わたしもそれ探してるんです」「今夜のジェームズ・ラブロックの?」「そうなんです、たぶんあっちではないかと」「ありがとうございます」。わたしは先に歩いていった。ヒッピー風のお洋服姿の彼女が後ろを歩いている。リンリンリン。静かな埋め立ての町に鈴の音。ちくしょう、やっぱりわからないよ、と地図看板を見ていたら彼女が追いついた。「あ、これかな」「そうかも」「じゃあ一緒に」。二人で並んで「ちこくだー」と言いながら早足。鈴の音は彼女の足元からきこえていた。「その鈴、いいですね」「なんか恥ずかしいです」「鈴、裾につけているの?」「いいえ、靴に」。彼女はきれいな顔立ちではあったが背丈がわたしと同じくらいだったのと、丁寧ながらも親しみやすい口調で喋ったので、とてもかわいらしい感じがした。「都会の雑踏のなかで汚い音にまぎれてリンリンって鳴ったらいいなと思ってつけたんだけど、こんな静かなところで鳴ったら、ごめんなさい、うるさいでしょ」。いえいえ。ただ、いいなあと思ったの。時間を過ぎて会場に到着し、わたしは早々に居眠りしている上司の横に座ってしまったのでその子の名前も聞けずにただ「さようなら」と別れてしまった。一瞬にして好きになってしまった女の子。でもたぶんもう会うことはない。

それは台場の未来科学館で行われた、ガイア理論の提唱者ジェームズ・ラブロック氏と毛利館長との対談と『地球交響曲 第四番』ラブロック篇の上映イベントに向かう道すがらでの出来事でした。