妹から「今夜は雪がちらつきそうだ」という連絡が入った。北海道の冬は長い。あの冬の暗さと長さは勘弁したい。でも九月の夏休みに倶知安あたりを各駅停車で走ったとき以来、羊蹄山が見える緑の景色が恋しいのは本当だ。四月から九月まで、かろうじてあの場所が「春」や「夏」と呼べる時期だけ、あの村で暮そうかと思う。だって真狩にはきれいな町営温泉もあるのだ。父か祖父を頼れば借家くらいどうにでも探せるだろう。スカパーのアンテナを持っているから日日の娯楽の心配もない。そうだ猫を飼おう。そして放し飼いにしてやろう。あたたかい六ヶ月がわたしには必要だ。いままでボンクラに過ごしていたのを改めて、机に向かってペンを取ろう。原稿用紙を新しく刷ろう。それを段ボール箱につめて移住しよう。わたしには車の免許がない。だからこんなこと夢物語だとずっと思っていたけれど、原付免許なら一日で取れると聞いた。むかし右折に失敗して垣根に突っ込んでミラーを折ったことがあるけれど、田舎道なら気楽に右にも左にも曲がることができるはずだ。真狩温泉にも野菜即売所にも倶知安町の商店街にも走っていけばいい。もっと遠くの町には、一両編成の鈍行列車に乗ればいい。テレビとパソコンとビデオと電話があれば文明生活はどうにでもなる。あのあたりは京極の湧き水もおいしい。わたしが生まれた場所には生家も親戚もいないけれど、縁と食材はこれから作ればいい。なんてすてきなアイディア。まずは荷物を減らすことからはじめることにしよう。

来春、沖縄に働きに行く友人の話を聞いてそんなことを考えた。わたしの定住インパクトはもう五年分。じゅうぶんではないかと、すりきれた畳を見ながら本当に思う。わたしは腰が重すぎる。