廣木隆一ヴァイブレーター』鑑賞。なにより上映時間の短さが好印象。寺島しのぶがきっちり脱いできっちり見せてきっちり喋ってうっとうしいくらいに演技をしていたのでやっぱり好印象。繰り返されるストップモーションがすこし癪にさわったけれど厭味というほどではないし、荒井晴彦の脚本はきっちりと正しいリズムとスピードでもって観客を一定の方向へ誘う。曖昧さも欲望も朝やけも夜の暗さも疑心暗鬼も不安定な感情と行動もうんざりするような女の甘えも吐瀉物も、すべてが同一線上に並べられているのが美しい。スクリーンに出てくるのは男と女とトラックだけ。そのシンプルさが心地良い映画だった。寺島しのぶのからだ、やわらかそうですこしだらしないからすてきだ。その肉(肌というよりも中身)を大森南朋の手が撫でていく。女のモノローグ。「この男の優しさは本能だ。やわらかいものは優しく触るということをからだで知っているというだけだ。水密桃をやさしく触らなくてはいけないというように」(こんな感じだったとおもう)。なにより、男が嘘をついているのが愛しい。身の上話が嘘かそれとも女のことを好きだと言ったのが嘘か嘘をついたということが嘘なのか、どれが嘘なのかは本当はわからない。とてもシンプルで、でもたくさんの嘘に支えられた素直な物語。もちろん、映画のなかでも秀逸に美しいシーンに流れる浜田真理子さんの歌声に、わたしはやっぱりじんとして暗闇のなかでこっそり涙目になったのだった。