金曜の夜。吉祥寺の、駅前近くのジムでバレエ教室。かたくて不器用なからだは相変わらずだけどきもち腕が長くなったように思う。ターンがうまくいかないが姿勢はだいぶんよくなった。からだを動かしていると脳みそが健全になっていく。体重はたくさん減った。一週間でもっとも優雅になったからだをきれいに洗ってから、夏に漬けた梅酒を土産に東中野。野菜かけそばとカボチャコンビーフの和え物を御馳走になっていると、宿主が墨で似顔絵を描いてくれた。チャームポイントは丸みを帯びた頬。解禁直後の梅酒は野性的な味わいだった。あたたかい玄米茶で割って呑む。しばらく談笑してたくさん出来あがった似顔絵を批評してからベッドで二人寝。おかげさまで感情の角がだいぶん丸みを帯びた。ありがとう、マイフレンド!

土曜日の夜。吉祥寺の、ハモニカ横丁のカウンタ内でビールを注いでいたら、おともだちの高円寺さんがひとりで遊びにきた。うれしいので焼酎を御馳走する。その隣に座った男二人客が「川崎でじゃがたらのー」と話していたのが聞こえてきたので、生ビールを出しながら「あ、金曜日、チッタ、いきます」とわたしが会話を遮ったことをきっかけに酒呑みトークがはじまる。洗い物をしているうちに、男二人と高円寺さんは意気投合していていつのまにか遺伝子レベルの話で盛りあがっていた。深夜近くにすでに赤ら顔の西荻君がやってきて、この西荻君と高円寺ちゃんは実の兄妹なのだが、いつ見てもやっぱり全然顔が似ていない。しかし驚き方が大袈裟なところと愛敬のある喋り口はよく似ている。

日曜日の昼。駒場東大前の、カワイコちゃんと一緒に横浜美術館東山魁夷展は大混雑。「緑色の美しい淡い風景画でしょ」というごくごく一般的なイメージは裏切られることはなかったものの、「それよりもこの複雑な白の色味に抒情を感じるのだなあ」という感想がプラスされた。唐招提寺の襖絵はあまりに大掛かりすぎて感動できず、順路の最初に飾られていた初期の「南天」の絵でピンク色の灯った愛らしい葉のほうがよほど心をとらえたのだった。中華街でごはんを食べて愉快な散歩をしてライチ紅茶と桂花茶を買った。「女子」として信頼している彼女といると自分に足りない色気について体感できる。それはつまり華やかさと素直さだ。焼鳥屋のカウンタではなく、ドレスアップして男性とお酒を呑むほうが得るものが多いだろうか。その方の才能に欠けるのはわかっていながらも美しい女たちの世界に憧れる。しかし「バイト代十万円のうち三万円くらいは衣装代やヘアメイクやら経費で消えるね」という言葉に架空の金勘定する指が迷う。ふと『女が階段を上る時』の高峰秀子のママ姿を思い出した。成瀬巳喜男の映画が思い浮かぶあたり、彼女に「ハタリさんの趣味はほんと古い。いまだ昭和にいるみたい」と言われてしまうゆえんかもしれない。

渋さ知らズの新譜『渋星』を大音量で聴いています。とても安定したすてきなアルバムです。その良さを言葉にするのが今夜の仕事。二月に出るシングル「自衛隊に入ろう」、高田渡の元曲を聴いてさてどんな感じになるのかなとたのしみに待つことにします。