親知らず抜歯後、微熱で寝転んでいたときに観たビデオの話。今井正青い山脈』『続青い山脈』(1949/東宝)。石坂洋次郎新聞小説が原作で、戦争直後の田舎町の女学校での「民主化」における騒動を前向きにそして愉快に描いている。主演の原節子が本当に美しい! これこそ絶対美。黒澤明の『白痴』を観たとき、その圧倒的な美しさに「ディートリッヒ!」とつい口にしてしまったのだが(久我美子が食べられちゃいそうだったのだ)、その悪魔的なる美の頂点とはまたちがった健全で凛とした文句なしの美しさをみた。後年、いわゆる『東京物語』的な穏やかな笑顔が貼りつく前の、若き原節子が好きだ。顔をしかめたり相手を睨んだりする表情の方がきれいなまつげが際立つ。周囲の我侭や身勝手をなだめるやさしい苦笑はもういらない。丸メガネお下げ頭で子供にしか見えない小さな若山セツコ、水着越しに胸をふくらませる杉葉子、学帽の下で戸惑う池部良青年、と、くれば思い出すのはあの映画。成瀬巳喜男の『石中先生行状記』は当然この映画のヒットに続いて作られたのだった。藤原釜足もちゃんととぼけた役で登場。関係ないけど、杉葉子の「160センチ、56キロ、わたし、普通の娘よ」という台詞に時代を感じた。「よく食う娘ならいい嫁になるよ」という言葉にも。なんてすてきな時代!