アテネフランセの特集上映で小川紳介ニッポン国古屋敷村』(1982/小川プロダクション)を観た。ドキュメンタリーの傑作としてあまりに有名で、また、まがりなりにも文化人類学を専攻し、東北の村道を歩いているおばあちゃんをつかまえて昔の生活に関する話を聞き書きしてまわるということをやっていた身としては、村に住み込んで一緒に田を耕し日日をともにしながら映画をつむぎ出すという姿勢に夢中にならないはずがないとわかっていたけれど、この映画においてなにより感動したのはラストシーンの詩の朗読だった。語られる言葉はそれまでに映されてきた記録の集積なのだが、土地の俚言のもつグルーヴに圧倒された。映画が突然走り出したのだ! 以前、たまたま点けたテレビでふしぎなエンドロールの映像を見て興奮したことがあって、それは小川紳介『1000年刻みの日時計 牧野村物語』という映画なのだけど、どちらの作品もなんて素晴らしくグルーヴィなドキュメンタリーなのだろう! それまで二百分間も積み上げてきた記録がさいごにふしぎな加速をして興奮を呼び起こすのだ。上映が終わるとそれまで頭を悩ませていた薄暗く曖昧な気分がすっかり晴れていた。こうして映画に救われる。ケンタッキーフライドチキンを食べたいと思うだけの元気と空腹が戻っていたのだ。財布の中身は二十円しか残らなかったけれどクヨクヨしない! そうだ、明日は、牧野村のみなさんが校庭を歩いて富樫雅彦のドラム演奏で終わる映画を観に行くたのしみがわたしを待っている。
http://d.hatena.ne.jp/htr/20031021