ソフィア・コッポラロスト・イン・トランスレーション』を観た。
こんなに感想を述べられない映画はひさしぶりだ。窓口で払った千円の行方を考えると悲しくなる。文章のうまい思春期時分の少女の日記帖が机のうえに開かれていて、それをこっそり読んでいる(読まされている)こちらの様子を、柱の陰から「しめしめ」と見られているような気がして始終落ち着かなかった。ただ、ビル・マーレイが本当にかわいかったのが映画を支えていた。この中年男役が彼でなかったら、と、考えるとめまいがする。少女の東京日記はだらだらと続くのだが(『夢の涯てまでも』でカプセルホテル内部を異邦人カップルが駆け抜けたヴェンダースのように、ソフィアはやはりパチンコ屋に迷い込んだりする)、ラストシーンの清々しさだけは正しい。「駄作!」と叫びそうになる口許をあわてて手で押さえて、ビル・マーレイがモニョモニョと何事か囁くシーン(当然聞き取れないのだがそこが大事)に手を叩いた。夜の狂騒と明け方の虚空、つまりはできの悪い『甘い生活』なのだなあと思ったら、ビデオで『甘い生活』を観るシーンが出てきたのだった。自己主張する他人の日記を読んで面白がったとしてもあとには何も残らない、そこが日記と物語が大きく違うところだ。