新宿で水着と扇風機を買う休日のはずが、湯河原の温泉で雨上がりの青空を見上げていた。かんたんな話だ。昨夜観た「最長片道切符」の影響にきまっている。さらにその前夜の、上野駅でもよおした突発的旅心もこの伏線だったのだろう。しかし、久々の列車ミニ旅のせいかなかなか勘が戻らない。家事と食事と投票を済ませていざ出掛けようとした途端に空が鈍く曇り雷が鳴りはじめてしまったスタートから、小田急線に乗れば先の落雷のために停電で足止め、藤沢行きに乗りかえて振替輸送に頼るべきかそれともこのまま箱根湯本行きが動くのを待つべきか…駅員の説明と駅アナウンスと電光案内板と車体の行き先表示がそれぞれ全く違う目的地を示していた。ダイヤが乱れるアクシデントも鉄キチにはちょっとしたアドベンチャー。こう見えても気が長いわたしは列車の遅れに対してはわりあい寛大だ。
小田原で東海道線に乗り換えてひとり弥次喜多気分、ようやく晴れてきた太平洋を車窓から眺めれば時はもう夕刻。あわてて列車を下りたら真鶴だった。駅前の閑散とした風情に唖然としながら、メロンパンにかじりついて空腹を慰める。タクシーに乗って山半ばの日帰り温泉にいったのだが、ンまー、これがなんともうそくさい温泉で、空と海がぞんぶんに望める露天風呂はうれしいけれど湯からすこしでも塩素の匂いを嗅ぎとってしまえば、のりかけた興もすぐ冷めてしまうものだ。ふんまんやるかたない気分でバスに乗って湯河原駅前へ。海鮮丼が食べたいなあという希望は徹底的に蹴っ飛ばされて打ち破れた。駅前の土産屋もかまぼこ屋も干物屋もすでに店じまい。ホームでダンゴを頬張って空腹を慰める。
上りの東海道線に乗って日常へと戻るかえり道。途中下車して気になるあの場所を探すも、おおよそのアタリはついているのに電話番号も住所も知らないから辿りつけない。狭い繁華街ぐるりを二三度廻ってから諦める。きっと今日は縁がなかったのだろう。おかしいな、温泉と知らない町の地理と面白い音楽に対する嗅覚は鋭いほうだと思っていたのだが、夏風邪で狂ったかしら。藤沢で小田急線急行に乗り換えようとしたら改札目前で列車がホームを離れていった。なんてこったい! アタマにきたので相模大野からロマンスカー(特急料金四百円)。だいじょうぶ、もうすこし待てば「青春十八きっぷ」の夏がやってくる。今日のリベンジ、本領発揮はそれからだ。