htr2004-08-14

親孝行を投げ出してひとり出掛けたのは「ライジングサン・ロックフェスティバル」。まずはフジロックで観そこねた無戒(向井)君の弾き語り。いつしか記憶は妄想にかわるーとかなんとか叫んでいた。砂ぼこりのなかで肉にかじりつく函館夫婦のもとに押しかけて、初対面のビア乾杯。「うちらエンゲル係数高いですよー」、そういう生活いいよねすてきよねおいしいものを食べさせてくれるひとといると心が豊かになるよね。


ムーンサーカスという草むらの前に建つステージで渋さ知らズのライヴ。うまい棒を肴にマリブミルクで酔いチャージ。昨晩のボアダムスでも相当狭かったと聞いていたステージ上にオーケストラが揃っていたので、いいかげんなふりをしていながら整理整頓が上手なバンドだなあと思った。このライヴはひじょうにアットホームな雰囲気で、ステージ前でピョコピョコ跳ねながらからだと心がホカホカした。「犬姫」のテーマが聴けたのがうれしい。天井の低い地下で聴くのも夜空の下で聴くのもいいけれど、夕暮れ前の中途半端な空の下で聴くのもまたいい。おそらくわたしはこの曲に心を掴まれている。だからね、どこまでも追いかけるとこころに決めたのです。


渋さのステージ前で会った東京のお嬢さんとホクレンのベンチでビールを呑んでいるところに、札幌のカレー王女を呼び出した。「ええと、こちら東京のお友達で、こちら札幌のお友達です」。カレー王女から「奥のテント村にあるボヘミアンなんとかというところがなかなかすてきですよ」との情報。そんなこんなでUAを観逃し、のんびりぼんやり夕焼けを眺める。夕陽のオレンジ色が純粋な果汁のように濃くてドキドキする。胸がくしゃくしゃになってどうにかなってしまいそうな夕暮れをひさしぶりにからだで感じた。


午後八時のボヘミアンガーデン。田舎道を歩いて奥まで進むと、水上に浮かぶテントではテルミンがほえーほわーんと鳴っていた。キャンプファイアーで背中をあたためながら電子音粒がサティを作り出すのを聴いていたら、反対の空に色とりどりの花火があがった。誰もキャーとは叫ばない。当たり前の光景であるかのようにみな首だけ向けて静かに見上げている。知らないひとたちが隙間をあけて集まっているこの場所は風通しがよくて気楽で美しかった。カレー王女の姿を探したけれど疲れたあの娘は仮眠中。


賑やかな場所に戻ってバッファロードーター。屋外でライヴを観るのはもしかすると七年ほど前の「闘魂!」以来かもしれない。フィッシュマンズとの対バンで、日比谷野音でやったイベントだ。そのときムーヴさんはジーンズを裏返しに穿いていてそれがとてもかっこよくていつか真似したろと思いながら未だできずにいる。ドント・トラスト・なんとかと言いますが、わたしは無条件に(勝手に)信頼している大人が何人かいて、それは山田宏一さんや遠藤賢司さんやウディ・アレン谷川史子武田久美子やいろいろな方がいるのですが、ムーグさんもそのひとりだ。特別追っかけるわけではないけれど、やはりあの裏返しジーンズから受けたショックはいまだ大きい。


ROVOのライヴ。譜面をおこそうとしたらきっと気が狂うだろうけれど、だからといって曖昧な組み合わせはなにひとつなく、有機的でありながら理詰めで積み重ねられる音の数々。興奮してしまえばどこかへとんでいけるのかもしれないけれど、これは無心でダンスしていていいもの? と迷ってしまう奥深さ。頭で考えるなんてナンセンスな試みなのだろうけど、こちらの頭の中の何かと音楽がリンクした瞬間があって、そのときはついキャーと声が出た。ひじょうに個人的な音楽体験。わたしにはまだこの音楽を語ることはできない。考えすぎかしら。トイレ行列に並んでいたら向こうの空から電気の「虹」が波打ってきてちょっとセンチメンタルな気持ちになる。


気になっていたモーサムの演奏はへったくそで(こんなものなのかな)、気分が萎えたところで藁のうえで休憩。仮眠態勢のままブルーハーブを聴く。はじめてCDを聴いた時のようなショックはなかった。そのまま藁の上で眠ってしまいあまりの寒さに涙が出て目がさめた。からだが凍えて動かなくなる前にメインステージ近くへ移動してあたたかい蕎麦を食べる。昼間の酒と風邪のために頭が左右から打ち鳴らされるように痛い。こんな寒さなのに感じ方はひとそれぞれのようでファー付きのスキーウェアを着ている娘もいれば半袖Tシャツのままの青年もいる。わたしは雨合羽。炭火焼の前で暖をとる真夜中。


午前三時の渋さ知らズオーケストラ。客席前方でとび跳ねた挙句にモッシュに参加したのはいつ以来だろう。たのしかったなあ。昼同様、小一時間のステージもやはりアットホームで、たしかにヤイヤイドカドカと賑やかなお祭音楽で演奏される曲もそういう選び方だったのだろうけれど、それでもどこかなんだか理性的というのか、ヤリ逃げッという感じはまるで無く、きれいでやさしくあたたかいステージだった。あとしばらく演奏が続いたなら濃い果汁のような太陽が再びのぼる夜明けと重なっただろうけれど、夜が割れて白い線が入ったあたりで演奏終了。おなかが空いて揚げジャガで朝ごはん。とん汁は器に大盛り、焼鳥はもはやバーベキュー串の大きさ、夏場なのにあたたかいドリンクが充実しているあたりも北国らしい。すっかり朝を迎えてからようやく登場したオリジナルラブ、貴男節をみなまで聴かずに始発の地下鉄に乗り帰宅。