マキノ正博『續清水港』(1940/日活)のビデオをようやく観た。マキノ監督の名娯楽シリーズ『次郎長三国志』でわたしは次郎長、さらには時代劇、チャンバラ、任侠世界に踏み入れて踏み込んで戻れないところまできてしまったのだけど、『次郎長三国志』でものどを披露している広沢虎造がここでも登場。「馬鹿は死ぬまでなおらーなーいー」、すばらしいね。夢オチと片付けるには愛と遊び心あふれるすてきな石松物語。片岡千恵蔵演じる舞台演出家は、寝ている間に幕末の清水にタイムスリップ。目覚めてみた富士山とチョンマゲ、「わっ、俺、片目がつぶれてらぁ!」。彼は森の石松そのひとになっていた。金毘羅山代参の帰り、お約束の三十石船のやりとりが千恵蔵石松と旅人虎造とで交わされる。「江戸っ子だってねぇ?」「神田の生まれよぅ」「うれしいねえ、すし食いねぇ!」。この虎造節のレコードが大好きで何度となく聴いてきたけれど、動いている虎造本人の姿を観ながら耳にする贅沢。「清水二十八人衆のうち誰がいちばん強いか」という話の流れで、いよいよ石松の名前が出てきそうになると、うれしくてウズウズした千恵蔵石松が「お小遣いあげちゃうっ」と懐に手を入れる、その表情のだらしなくってかわいいことといったら! マキノ監督の軽やかさと虎造の浪花節がうまく噛み合ったミュージカル映画。ラストシーンの「ハー、チャッキリチャッキリ」の茶摘唄、『次郎長三国志』にも登場するもので、この唄もとてもかわいくて耳に言いようのない幸福を残すのだ。