入谷なってるハウスで低音環境。今夜は大原裕さんの特集で、不破さんのコントラバスと高岡さんのチューバで大原さんが作った曲を演奏。「映画音楽みたい」「顔に似合わずロマンチストだったのね」。大原さんの作った曲で今春のクアトロでエミリーさんが「じゃーらじゃらいこうー」と唄ったあの曲、はじめて聴いたときあまりのセンチメンタルな風情にびっくりした。今夜はそういうちょっと特別な日。その場に居合せられたことはこれもまたひとつの幸福なのだと思う。そんな親しさが頭の上のあたりに漂っていた十二月の夜。

大原さんの曲をいくつも演奏したのちに低音環境通常業務。低音でビリビリやり合う「ナーダム」は次第に加速し白熱していって、からだでリズムを刻みながら、なんだかこれは戦士の唄だと改めて気づいた。渋さ知らズの演奏ではそれほどは感じないのだけど、チューバとベースだけで音を重ね合うと、敵陣突入の勇み足ではなくて、その手前にある理不尽なあれこれに対して槍でも投げようとしている風景が浮かんでくるのだ。いくさが始まる前にふたりの戦士が茂みで飯盒炊飯をしながら盛りあがっている様子とか、あるいは本当は海賊なのに陸にあがってしまったがために状況を解さないまま銛で猪を追いかけている様子とか、そんな風景ばかりが勝手に浮かんでくる。低音環境の「ナーダム」は戦士の唄。どちらかが少しでもさぼったら「なんだよ! メシが炊けないじゃないか!」と怒鳴り合うようなそういう一所懸命さ。もちろんシリアスさを底に秘めているのだけどそう簡単にはタネは明かしません。

ライヴ終了後に面白いものを聴かせていただく。ジャーンと音が鳴って全員爆笑、そして大喜び。とある高校の文化祭で行われたという90人の高校生による「ナーダム」演奏。不破さん曰く「黛敏郎の『題名のない音楽会』のゲストに伊福部昭がやってきちゃったかんじ」。途中でNHK大河ドラマのテーマソングみたいなアレンジになったり、『八十日間世界一周』のソウルバスのアニメーションにのったエンディングのように(日本だと和風アレンジに、インドだとシタールの音色が混じったりする愉快なテーマ)あれこれと表情をかえながら、なおかつ若者独特のやけくそな勢いでもってどんどん加速していく。サックスソロもブヒャーと秩序を掻き乱したりしてとても面白い。こんな文化祭だったら学校をサボらずに体育館ではしゃいでいたいなと思うような素晴らしき宴。ちょっとうらやましいくらいね。