市川雷蔵がぐずるわたしにお早ようと言った。もうすぐ雪が降り出しそうな朝、安普請の六畳間アパート通称ハタリハウスでは、一夜の役目を終えてすっかり冷えた湯たんぽに未練がましく足を寄せた寝癖頭のお嬢さんが、夜が明けてもまだまだ夢を見ていた。CS放送森一生『てんやわんや次郎長道中』(1963/大映)を観た。マキノ映画を筆頭に次郎長物語に心奪われ、二十八人衆になるならやっぱり小政がいいなあ、でもやっぱり次郎長のいいひとお蝶さんになりたいわあ、と、つねひごろ考えているわたしですが、美形雷蔵さま演じる次郎長、ちょっとたよりないんじゃないのーと思ったが間違い、芦屋雁之助芦屋小雁藤田まことらスットコドッコイな乾分を引き連れて喜劇の主役を張るその軽やかさ。映画自体は、東宝のマキノ『次郎長三国志』をはじめとした次郎長もののさらなるパロディといったところ。酒場ではちゃんと広沢虎造のような浪曲師も出てくるし、男女が探り合い手をとりながら茂みに消えていくような田舎の祭のハレの雰囲気もよく出ている。かわいそうな生娘役といえばの坪内ミキ子はやはり同じような役で、彼女の下がった眉毛と斉藤一郎先生の音楽をきいていると、物影から市っつあんが顔を出すような気がしてならないが、やってきたのは男前の次郎長だったという話。ミヤコ蝶々夢路いとし喜味こいし師匠など、オールスターでてんやわんやの騒ぎ。だって森一生監督ですもの、やはり映画は大衆娯楽なのだよなあと当たり前のことにあらためてよろこぶ。まるで一日早くお正月がやってきた気分の大晦日

本年もお世話になりました。そしてぜひ来年も。よろしくどうぞ。