午後五時半の上野ランデブー。別嬪ちゃんに倣ってアメ横を流した。彼女行きつけの鰹節ショップで一番だしをいただき、「菓子の仁木」を冷やかし、甘いお酒とタコスで乾杯。新しいお友だちが増えるのはとてもうれしい。酔っぱらうとゆかいな具合になるお嬢さんだとなおうれしい。悪酔いして絡んでくるような厄介は勘弁だ。放っておいても勝手ににこやかに笑い続けて自滅するようなゆかいな子がすきだ。そのうえ別嬪ちゃんは古着の赤いワンピースがよく似合う。マスカラや長女の話などをしてすごす。ずいぶん古くからの知己のような気分。

遅刻して流れついたなってるハウスは大盛況。小森さんと立花さんのサックス、須賀さんのピアノ、大沼さんのドラム、不破さんのコントラバスという編成の渋さチビズのライヴを観た。これまでもいろいろなライヴを観てきたような気分になっていたけれど、今夜の体験は最も愉快でありそしてものすごく怖いものだった。路上で今にも殴り合いになりそうな一触即発の様子をガードレールを挟んだ歩道側から眺めているのだけれども、ちょっと油断して傍観者を気取った途端にこちらの鼻っ柱を殴られそうなかんじ。そうだ、植草甚一さんのスクラップブックの二巻『ヒッチコック万歳!』に、ヒッチコックが書いた映画随筆のなかに「ふつう人間は自分の身に危険がおそってこないかぎり恐怖を楽しむものだ、とくに恐怖映画を観ているひとがそうだ」というような記述が出てくると紹介されているのだけれど、そんな気分をガツンと覆されそうな勢いが目の前にあって、終始ドギマギしながら観ていた。もちろん、あそび心に満ちたゆかいな音楽であるのだけど、それと同時に、一瞬先には自分が殴られるのではないかというような怖さ。目の前で生まれくる音楽は生物だ。生物だから型通りにはいかないもので、行儀の悪い子もいれば手の早いやつもいる。それらを集めて席に座らせようとしたら問題児ばかりだった。学級崩壊は拓けた新たな世界のはじまり。疾走するドラムはスティックが真っ二つに折れてもなおつづく。いったい誰がとめるのかといえば、とめるひとなんて誰もどこにもいなくて、全員が走り続けたというのが目の前で起きたことの純然なるリポート。

浅草東宝とロックスまつり湯、さらに上野発の夜行列車の誘惑をふりきり無事帰宅。