htr2005-10-17

道玄坂を下って宮益坂を上がって欲望の谷をやり過ごしたら、きょうは月曜日。Y氏の月曜映画誌講義のために青山へ。今年は春から旅に出ていたので、十月半ばになって初出席。図々しくも正面のいちばん前の席で学生気取りで黒板に向かう。今日は「stop motion」つまりアニメーションについて。オーソン・ウェルズが『審判』で冒頭に起用したピン・スクリーンの地道な手作業に驚いたり、タイトルアニメといえばお馴染みの『ピンクパンサー』を観て笑ったり(ひさびさに観たけれど、第三作目『ピンクパンサー2』のタイトル、ラスベガス仕立てでスタッフの名前がネオンになってドーンと出るばかばかしさがすてき)して、アニメーションの面白さと手放しで向き合う。ひさしぶりにお会いしたY氏はやはりご自身がもっともわくわくしながら映画についてお話をされていて、多忙を言い訳にすっかりふやけていたわたしに、映画を信用することの勇気を教えてくれる。

ロジェ・ヴァディムの初期作品『大運河』(1957/フランス・イタリア)、その冒頭いきなりはじまるのが『マクボインボイン 惑星ムーへ行く』というアニメーション。一篇まるまる取り入れられていてすっかり楽しんだ。絵柄と色味の愛らしさ、物語のかわいらしさにクラクラする。見入ってしまったところでスクリーンのなかの映画館の客電がついて観客たちは笑いながら席を立つ。そして映画館を出たところでふたりが出会う。男が女に声をかけると女は歌うように応える。キャメラがパンしてヴェニスの運河を映し出す。このザッツ・フレンチ!としか言い様のない洒落っ気といったら。時は1957年、ルイ・マルがマイルスに演奏をさせていた頃、ヴァディムはモダン・ジャズ・カルテットを使って小粋な映画を撮っていた。しかもここまでがすべてアヴァンタイトル。ああ、もう! うれしくなっちゃうじゃないの!