htr2005-10-23

秋の東京の空は不安定で、十月は一年で二番目に苛々する季節だ。失くし物をするのはいつもこの時期で、財布を忘れて呑みに出かけたりエスカレーターを逆行しかけたり予定を寝過ごしたりのミスウッカリの日日。失くしたくない物があったはずだけどこの棚の許容はかぎられているので落し物の言い訳を先に考える。十月は不謹慎な季節だ。繭みたいな情愛に守られていたいと思いながらも、円谷特撮映画みたいに囲いを蹴破って外に出たいとも思う。ああ、ふとんにもぐったまま革命について考えるなんて半端でばかげた話!

渋谷クラシックス東京中低域のライヴ。五月のこと、十本のバリトンサックスがメロディとベースラインと奇声を重ねていくのを目の当たりにして、低音フェティッシュとして胸がキュンとしたのは至極真っ当な恋心。男前な演奏の合間のコミカルなエンターテインメント、水谷さんのキュンとくる歌声、その帽子に飾られた花やもちろん表情豊かな低音の重なりに恋をする。そもそも低音のバリトンサックスばかりを集めてブイブイバフバフ鳴らすという大真面目に馬鹿げた思いつきは、まるで男子中学生の休み時間のようだ。そんなシーンがうらやましい。すべては掃除当番の箒ギターに通じる。いつだって男の子たちはたのしそうね。

三鷹南口の江ぐちで中華麺を食べたらうまかった。やきそばみたいな麺、シンプルな姿なのにいろいろな味のするスープ、コの字型のカウンタのなかにいるイイ顔のおやじさんでここでもわたしは恋をする。満腹を散歩でならしてから、駅前のギャラリーで「谷岡ヤスジ展」をみた。六十年代ヤスジ初期、出版社への作品持込み時代の原画や編集者の評を書き留めた直筆メモから、「メッタメタガキ道講座」あたりのナンセンス爆走作品、巻物調の年間スケジュール帳など充実した展示にワクワク。こうして改めて見るとびっくりするよな構図のコマがたくさんあって、踏んづけていたはずの猫に踏まれ返される「ふんじゃー!ふんじゃー!ふんじゃー!」のコマはもはや革命だ。オラオラと盛り上がりながら、鼻血パネルで記念撮影。