耳に届くはきみの唄声

htr2006-05-28

赤目でのオオサンショウウオ旅を終えて「近鉄」で名古屋駅に戻り、今度はまたしても人生初の「名鉄」に乗車。はじめての路線はスリルに満ちている。乗り込んだ快速列車は目的地の三つ前の駅止まりで、ぼんやりと各駅停車を待つ。降りた駅前にはコンビニエンスストア吉野家もなく、家と畑の合間のごく狭い路地を抜けて信号機を目指す。名古屋駅から数十分ほどなのに、とたんになつかしい「おばあちゃんの匂い」のする景色に出会ってしまった。

名古屋の大須「チェザリ」にて、鬼頭哲、チューバの吉野竜城、ユーフォニアムの照喜名俊典のライヴ。「sing brass blow bros.」と題したこのトリオ、「鬼頭 哲 ブラスバンド」でのレパートリーも含めつつ、「ヨイトマケの唄」の演奏などもあり、まさしく「楽器を使って唄う」というコンセプトから生み出された音楽。東京中低域渋さ知らズではボトムラインを担う場面が多い鬼頭さんのバリトンサックスだけれども、吉野さんの実に丁寧で繊細な音と、照喜名さんのきれいなメロディラインと重なり合い、ときに際立ちながら、たしかに「声」で唄っていた。ひとつの楽器がこれだけ雄弁であるということ、その声はひとりよがりの大声ではなく、音楽に対して謙虚(かつ卑屈でもない)なものだった。言葉のある曲を楽器のみで演奏する「インスト」ではなく、唄に添い遂げるということ。歌ごころ、というものはへたくそな感情移入ではなく、自分の「声」に気づくことなのかもしれない。

厳しいことを言えば、MCや、段取りや、コンセプトの詰め具合など、まだまだこれから磨くべき要素も見えたライヴだった。音にしても、よりタイトに、あるいはより拡がりのあるシーンを作り出す余地もあるだろう。それぞれの実力と想像力を信頼し合いつつも、相手を出し抜いて驚かせてやろうという悪巧みをも潜んでいるこの中低音楽器奏者三人による演奏、また観られたらいいなあと思う。そのときはきっともっと驚くことになるのではないかと思う。期待しています。

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鬼頭哲 http://www.kito-akira.com/
照喜名俊典 http://funkeuph.yoll.net/