鬼頭 哲 ブラスバンド の ライドーン!

htr2006-06-24

ハタリブックスは本を作る一連のお仕事のほか、すてきな音楽を鳴らす人のお手伝いをすることも生業としています。今春からハタリが仲間に加わったのが、現在名古屋を拠点に活動している「鬼頭 哲 ブラスバンド」。渋さ知らズ東京中低域でも御馴染みの、パワーとセンチメンタリズムとエキセントリックな外見が同居するバリトンサックス奏者、鬼頭哲さんが主宰するユニークな吹奏楽団。

いかんせん偏った音楽遍歴を持つミスハタリ、「ブラスバンド」という語感にほとんど馴染みがない。中学や高校の放課後に音楽室から「パプー!」と聴こえてきた音の記憶ぐらい、そもそもフィールド違いの音楽だった。にも関わらず、縁あってこのブラスバンドのライヴを初めて観たのは昨年の夏。渋さ知らズの仲間として欧州旅道中を共にしていた鬼頭さん、彼自身の「音楽」を知る絶好の機会となったわけだけれども、わたしにとってただでさえ馴染みの薄い他所の芝生はどうにも歯抜けの草ばかりという印象で、厳しいことを言えば、プレイヤーの稚拙さや表現の曖昧さばかりが気になって、書かれている曲がすてきな音楽であるはずだということだけしか想像できずにいた。曲が浮かばれないなあという煮え切らない思いばかりが残っていた。今回、総勢二十五名のフルメンバーで演奏される「鬼頭 哲 ブラスバンド」を観たのは三度目。オリジナルの新曲もさらに増え、新しい強力メンバーも加入し、バンドにとってリスタートとなるライヴであると自信たっぷりに銘打っていたこの日。まったくもって驚いた。面白かったのだ。以前はやかましすぎるきらいのあったパーカッションが理性を得て、感情の盛り上がりと掛け合わせてちょうどよい温度の音となっていた。チューバの低音は繊細な位置で安定し、トランペットはイニシアチブを握って離さず、トロンボーンは華やかなアトラクションとなり、サックスには柔軟さが生まれていた。クラリネットは唄うことを覚え、フルートが刻む音符もしっかりと耳に届いた。この「面白い」という印象に、実はすこし悩んでしまった。このブラスバンドに対して愛着をもつようになったがゆえの甘い満足であるならば、それはイヤだなあと思ったのだ。しかしライヴ中に何度も考えてみた結果、もちろん探せばまだまだいくらでも粗はあるし、手放しで万事快調だったと言えるわけではないのだけれども、いつしか音に身を委ねることができた幸福感。それは想像していた以上に、心地よく頼もしい音楽だった。

そんなわけで、今しばらくこのバンドのお手伝いをさせていただくことになりました。この日がひとつの「船出」であるならば、航海の先行きはきっととても長い。漕ぎ出でた船の舵をとるひと帆を立てるひと荷を積むひと食事をつくるひと。波に乗るためにやるべき仕事は多々ある。次回公演は十月、名古屋の千種文化小劇場の円形舞台にて。かつて楽器を演奏していたひと、いつの間にか「音楽」を忘れかけていたひと、それから今なお「音楽」とともにあるすべてのひとたちへ。「鬼頭 哲 ブラスバンド」へのご乗船をお待ちしています。

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鬼頭 哲 ブラスバンド http://www.kito-akira.com/brassband