単線センチメンタリズム

htr2006-06-30

名古屋での日日を終えて、バタバタの足取りのままに札幌へ二泊三日の里帰り。何のオシゴトも用事も無いし、実家の猫と戯れてヒマな時間帯にはシアターキノで映画でも……という目論みは外れて、猫の代わりにパソコンを抱えながら泣く。まあ、飛行機を予約した月初の時点で月末のワタワタはゆうに想像できていたのだけれども、千歳空港から札幌駅へ向かう快速エアポートの座席でもデル子を起動させて原稿を書いているだなんて、まるで売れっ子作家かデキるビジネスマンモデルのよう。実像はただの「夏休み最終日になってあわてて三十日分の絵日記を書く」小学生と違わぬ自業自得、この情けなさよ。

狸小路七丁目近く、バーやレストランが雑居する二階建てのビルの中にある「Zucka」という名のトラットリアにお邪魔した。店内は中二階があるメゾネットタイプで天井が高い。落ち着く雰囲気と、辛口のスパークリングワインと、かわいいお兄さんのお給仕。食材に対する誠意が見える店はうれしいな。サツマイモのニョッキが甘くてふしぎと美味しい。ゴルゴンゾーラチーズソースの塩味とあいまって、こころがやさしい気もちにつつまれた。

北海道は余市まで。祖父母の家の裏手には長万部方面と札幌方面を結ぶ函館本線が走っている。夏草の茂みをかきわけてその線路をこっそり渡り、国道も横断すると、コンクリート工場の裏手の海に出る。水着とサンダル姿で家を出て浮輪を手に歩いたその線路までの砂利道は、子どもの頃はとても長く暑い道のりだと思っていた。大人の歩幅であるけばものの五十メートル、細い道沿いに数軒の家が建っていた。茂みと呼ぶには背の低い草を越えて向こう側を覗けば、やはり線路はそこにあった。もちろん単線。ああ、わたしの単線好きはここが原点だったのか。