鬼頭 哲 ブラスバンド 「十月の絶唱」

htr2006-10-18

ミスハタリの「十月の奔走」、パタパタした足取りでご報告です! ジャン!

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まずは十月十八日、鬼頭 哲 ブラスバンド「十月の絶唱」。十五日から名古屋入り、プレイヤー二十七人中の二十六人が奇跡的に揃っての最終調整リハーサル。ギリギリまで準備や仕込みに追われ、新幹線の車内で四股立ちしながらマスカラを塗っては気合を入れ、瀬戸までうなぎを食べて鼻血が出そうになるくらいに精力をつけ、山場の数日間を踏ん張りました。以下はその当日、「鬼頭ブラスのいちばん長い日」の企画製作の記録です。

【9:00】
昨夜、メンバーに手伝ってもらってCDR封入やプログラム制作を片付け、最終打ち合わせやチケット管理などの作業を終えて寝られたのは午前四時半。遮光カーテンの部屋で迎える寝不足の目覚めはなかなかの拷問だ。

【9:30】
九時半より新栄の芸術創造センターの地下リハ室で自由練習。一番乗りのトランペット奏者織田祐亮くんほか、徐々にメンバーが集まってくる。全員集合の時間まで近所のスターバックス経理関係の事務仕事を片付け、渋さ知らズでもご一緒の舞台監督横沢紅太郎さんと最終確認を済ませた進行表を眺めながらカフェラテ一杯分の休息。向かいの「米屋のおにぎり」で軽食用におにぎり四十個を予約注文。コンビニエンスストアで配布用の進行表をコピーしてから芸創に戻る。

【11:00】
メンバー全員集合のはずが、二人も遅刻欠席。ほんともーまったくダサいのなあ。進行表を配って全体と本番の流れを簡単に説明、その後解散。この大所帯、どうせ後で会場で会うのだから、必要事項が済んだら方々にパッと散っていただきたい。わたしは集団行動におけるダラダラズルズル感が苦手なのだ。吉野竜城さん、三原智行さん、横沢さん、鬼頭さん、松本卓也君と、近所にあんかけスパを食べに行くも、どう差し引いても胃腸がやられそうだったので「サラダ大盛」のみオーダー。食後、横沢さんが「名古屋にやられた……」とグンニャリしていた。

【13:00】
「千種文化小劇場ちくさ座」会場入り。すでに映像班がセッティング中。舞台担当の方と事務所にごあいさつを済ませ、楽屋と動線のチェック。九月から突貫工事で編集をしギリギリで投げ込み入稿をした鬼頭哲責任編集ミニブック『鬼頭哲のふしぎな日常』(ハタリブックス)が無事に会場に届いていてホッとする。舞台上に椅子や楽器を並べてみると、図面上で予測していたよりもステージが狭く客席が近くに感じられる。急遽カメラ位置に変更が出たりしつつも、なるべく客席はつぶさない方向で調整を進める。舞台関係のことは横沢さんに一任。横沢さんは現場に強いだけではなく、落ち着いた仕草で指示を出しながら、総合的な視野をもちながらも瑣末なことまで見落とさずに丁寧に物事を進めてくれるので、ザルな仕事をしがちなわたしは本当にいつも助けられています。

【14:00】
メンバー集合。さっそく赤と黒の衣装に着替えてステージに上がってもらう。受付物販関係のボランティアスタッフの方々にごあいさつ。すでに前売券が完売していること、開場から開演まで三十分しかないこと、お客さまの客層が幅広いこと、おそらく過酷な受付業務になることを説明。受付と客入れフローのシステムを説明し、導線の確認。ホールでは予定より早くステージが出来上がったのでそのままゲネ開始。入りやハケの確認、会場スタッフにお願いしている照明や音響の調整。本番全体の流れがひと通り見えたたところでサウンドチェック。ボランティアスタッフの方々には本番をゆっくり観てもらえないと思うので、客席に座ってステージを観ていただく。ありがとうございます。

【15:00】
パーカッションの近藤久峰さんと、トランペットの池下知子さんが駆けつけて、ようやく二十七人全員集合。今日の会場はすり鉢状の客席に囲まれる円形舞台。みなが口を揃えて言うほどの「デッド」な空間で、隣の人の音もなかなか聴こえにくいという、プレイヤーにとっては本当に過酷な環境。最初に合わせた曲は各パートそれはもうバラバラでひどいことに。音をベストの状態で聴かせるということなら敢えてこの円形劇場を選ぶことはなかった。この劇場はお芝居で使われることが多く、音楽には不向きなハコだ。でもライヴをやるならここだというのが最初にあった。今回「ホール公演」を企画した段階でまず重視したのは「お酒が出るような夜の時間帯のライヴには来られないお客さんにも観てもらいたい」ということだった。高校生や、小さなお子さん、お年寄り、遠方の方、ふだんライヴに行かない方にもこの音楽を観て聴いてもらえたらいいなあと、そう鬼頭さんやメンバーは考えたのだ。そして、いままでライヴを行なっていたのが決して交通の便がよいとは言えない郊外だったこともあって、今度は便利な立地で、平日夜の早目の時間帯に設定して、学校帰りや会社帰りに立ち寄っていただけるようにと考えた。そういう意味で、今回はずいぶんと今までとは勝手の違う「公演」だったわけだ。しかしいわゆる「音響ホール」でいわゆる「コンサート」をやるのは、いままでライヴハウスや街頭で芸を見せてきたこのバンドの面白みと強みを封印してしまうことになるということもあって、単なるお行儀のよい「ホール公演」をするつもりはさらさらなかった。「名古屋の小劇場でやるなら千種のみ」というのは五月の段階での鬼頭さんとの共通認識。ハコ選びも含めて演出だ。これが吉と出るか凶と出るか。そんな「デッド」な環境での音出しはシンドイだろうに、メンバーは文句も言わずに一所懸命最高の音を探してくれていた。

【17:00】
音出しを終えてメンバーは一旦解散。近くに出かける人あり、楽屋で化粧に勤しむ女子あり。裏方であるわたしも衣装に着替える。昨日大須で見つけた古着の赤いワンピース。七十年代のアイドルのドレスのようなお洋服。九センチヒールのオーバーニーブーツとオレンジ色の花をつけたベレー帽で武装する。このバンドの弱点はいまいち見た目が地味なところだとおもう。いわゆる「文化系」の地味なかんじ。まあ、間違ってはっちゃけて惨憺たることになるよりはいいのかもしれないけれど。今回の衣装は赤と黒。この色の組み合わせなら間違いないだろうと設定したら、みんなそれぞれ自分に似合うナイスな衣装を見つけてきてくれた。あとは照明を浴びてどれだけ舞台映えするかだ。急遽撮影をお願いしたカメラマンの鈴木さんとディレクターの白木さんにごあいさつ。着替え途中の阿呆な格好でどーもすみません。

【17:30】
お客さまがロビー玄関に並び始めた。当日券の問い合わせのお電話も数件いただく。予定より早く受付開始。やはり大変な入場ラッシュとなってしまった。予期せぬトラブルもいくつか発生し、スタッフでは判断できかねる事態も起こってしまい、受付が停滞してしまったことでお客さまにはご迷惑をかけてしまい申し訳ありません。ロビーにて、ボランティアスタッフの方たちと一緒に入場誘導の声出しをする。メンバーは階上の練習室で音出し中。

【18:15】
舞台袖であわてて原稿を書き、そのまま一本目の影アナウンス。ホールに自分の声が響いているのはおかしなかんじ。なるべくゆっくりとしゃべるよう気をつける。客入れのBGMは鬼頭セレクトによるSIGHTSの『エルスール』。メンバーに「講師」が多いためか客席に制服姿の高校生の姿がわらわらと見えてほほえましい。作戦成功。入場状況が落ち着かないので、この時点で開演十五分押しが決定。

【18:30】
影アナ二本目。マイクぎりぎりまで唇を近づけてよそ行きの声です。メンバーは楽器を手に袖待機。みんな緊張しているのかなと思ったら意外とニヤニヤしていたりするので驚いた。とはいえ、一分二分と開演が近付いてくるにつれて徐々に緊張が高まってくる。あれほど舞台の場数を踏んでいる鬼頭さんでさえ、普段ではまず見られないほどピリピリしている。悪くないね、このかんじ。これが現場の空気ってやつだ。

【18:45】
客電が消灯、舞台両袖からメンバーが舞台へ。拍手。のぞき見れば客席は九割ほどの大入り。クラリネットの三ツ本綾乃さんの先導でチューニング。音が鳴り止む。袖から様子を見ていた横沢さんがインカムで照明さんに指示を出す。フェイクファーの黒帽子をかぶった鬼頭哲が現れて、鬼頭 哲 ブラスバンド「十月の絶唱」スタート! 無音の会場にクラリネットの一音目が鳴りひびいた瞬間、アタイ、不覚にもググッときちゃった。一曲目は、新曲の「ダイク(No.9)」でした(出演メンバーとセットリストはこちら )。

【19:20】
第一部終了。袖で三本目の影アナ。物販案内をしようと思ったら喋る内容が多すぎた。休憩の十五分間、大入りの会場で演奏していたメンバーは興奮している様子。その高揚を一緒に分かち合いたいものだけれど、本番中は遅れてくるお客さまの対応や受付に顔を出したりしていて全く舞台を観られなかった。休憩中、物販コーナーでは六月のライヴ録音をテーマ別に三枚に分けて収録したCDRと『鬼頭哲のふしぎな日常』を販売。高校生が「お金がないけど一枚だけでもほしい!」とお財布の中身をのぞきこんでいたのを見られてちょっと幸福。

【19:45】
第二部スタート。三原さんのソロからトロンボーンをフィーチャーした新曲「ハフンハフン」で幕開け。のんびりとした曲調をのんびりとしたものとして伝えるのは実に難しい。三原さんのトロンボーンの味わいというのがよくわかる曲だ。横沢さんが「僕はハフンハフンが好きだなあ」と言っていたのがなんだかうれしかった。第一部に比べてキャッチーな曲を多く配置したため、クライマックスに向けて登山をしていくかんじ。

【20:25】
アンコール。カタルシスは「手ぶらでいこう」ではなく「うたをうたおう」に。達成感を謳歌するというには、制作サイドに不備や拙さがあって手ぶらで喜ぶまではいかないけれども、それでも渾身の音の重なりを耳にし、会場の体温の上昇が感じられたときにはそれなりにグッときたのよね。

【20:40】
終演。終演の影アナを入れるも客電点灯のタイミングが遅かったために期待の拍手が続いた。もう一曲頼ンます!と言いたいところですが、会場の時間の都合のためこれで終了。影アナを終えて、袖にたまっているメンバーに「おつかれさま!」と声をかけてからロビーへ。扉から出てくるお客さまの表情を見てようやくひと安心。諸々の差し引きはこれからだけど、この手応えはきっと「成功」の一種だ。

【21:10】
撤収作業をほぼ終えた舞台上で全員集合、記念撮影。輪に加わろうとしたら「まずはメンバーだけで」と鬼頭さんに言われてカチンときた。バンドにおけるプレイヤーと制作サイドの関係というのが今後の課題。次の次のステップを見据えると、受付や接客対応を含めてさまざまな問題が浮上するものだ。舞台裏の撤収はメンバーの分担作業でスムースに進行し、客出しを終えて受付で精算作業。これがなかなか大変なのだ。ボランティアスタッフのみなさん、ありがとうございました。

【21:30】
完全撤収完了。アコースティックのバンドは大所帯でも撤収が早いので助かる。会場担当の方にお礼、映像班をお見送り。最後まで残った横沢さんと二人で、今池方面の中華料理屋「麒麟楼」へ。メンバーや関係者のほか、お客さまも混じっての打上げ大宴会。事前に準備していた通りに……とはいかず、実はいくらか予算オーバー。大入りチケット収入に助けられたので事なきを得る。あちこちで乾杯と「ありがとう」が交わされていたのでよかったよかった。

【23:30】
打上げ宴会終了、ここで解散。次回は十二月だ。楽器や機材を車に預けて、鬼頭さん吉野さん横沢さんとタクシーで千種駅へ移動。電車に乗って春日井の松本亭へ向かう。平日の終電車の中、サラリーマンとOLに挟まれて赤いワンピース姿で眠りこける。もはや電池が切れる寸前。

わたしが初めてこのバンドを観たのは一年前、出来心と興味心で名古屋へと出向いたのは夏の夜。そのときの印象について、もうあまり言うことでもないだろう。煮え切らない気持ちや不満を感じて、ひとりの客であったわたしはずいぶんと言いたい放題に正論をぶちまけたことがった。打てども響かないあの奇妙な感じにガックリしかけたところで、そう冬の夜明け頃、「そんなに言うなら一緒にやってみなさいよ」という声が聞こえた。喧嘩っていうものは買われたら大売出しするものだ。その後、春が来て、バンドの企画や運営に関わるようになった。それより以前のこのバンドの姿なんて知らないし、乱暴に言うならば、ハッキリ言って興味はない。集団心理の自己満足は得意じゃないし、手前味噌ショーほどいやらしいものもない。だから今、わたしたちが立っているこの場所が彼岸でも此岸であっても、わたしはひいき目無しにこのバンドを見ていたい。そう、これが「鬼頭 哲 ブラスバンド」の現在そのものだ。思うぞんぶんに楽しみ次回を望んでくれるお客さまもいる一方で、期待していたショーとは違ったと感じたお客さまもいるだろう。新たに参加したメンバーも、古くから参加しているメンバーも、このバンドの現状に対して考えていることはさまざまだと思う。そしてなにより、このバンドを指揮している鬼頭哲自身の手応え。
そのすべての声を大事にしよう。それしかできることはないのだ。

【1:00】
松本亭に着いてバタンキュー。胃腸の調子も不穏。疲労をおんぶにダッコしてすごしたこの数日間のしわ寄せが一気にやってきた。「悪い、寝る!」と早々に寝床を確保して眠る。おやすみなさい。