バレエ&クラ 現場になるからだ

どちらもたのしく稽古中

今年に入ってからバレエを再開した。整体師が「こんなに凝りがひどくてよく生活できているねえ」と呆れるほど、わたしのからだはスポーツに不向きな筋肉でできている。そのうえ、足首、膝、股関節、肩、手首、あらゆる関節が油不足の鉄細工のように固い。そんな不自由なからだにも関わらず、小学校二年生ではじめたミニバスケットボール以来、よく体育会系の王道を突き進んできたものだとおもう。ただその無邪気な過程の途中でも、子どもごころにからだの限界が見えてしまうことはままあって、バスケットボールのゴール下でジャンプをするときや、空手の型演舞や組手で突いたり蹴ったりするときに、「ここがもうちょっと伸びたら」というもどかしさを感じていた。十代のほとんどの時期を筋肉トレーニングやハードな走りこみをして鍛えていたせいで、筋肉が凝り固まってしまっていたようだ。そこで、運動の現場から離れた二十代半ばから意識的にストレッチやヨガといったストレスレスな体操、姿勢矯正、モダンバレエなどのダンスでからだを緩ませることを試した。その効果はいろいろあるけれど、そのうちのひとつが呼吸の「見直し」だ。

月曜日のバレエストレッチのクラスでは、踊る以前に二時間近くをフロアストレッチに費やす。はじめて参加したとき、先生は骨格見本(ガイコツ君)を見せながら骨がどのようにからだを作っているかを説いた。「すべての基本は腹式呼吸、そしてからだの軸は背骨」とレッスン中に何度も口にする先生は、からだの歪みを直しながらダンスの基礎を教えてくれる。バレリーナの後姿を見よう見真似で踊るのとは違い、言われたことをからだで実験してみると、鏡に映っている自分の姿がかわるのがわかる。それはからだが現場になっているという感覚。

今日から新たにクラリネットレッスンを受けに出かけた。まず先生に言われたのはやはり「すべての基本は息遣い、腹式呼吸」ということ。大きく吸い込んだ空気を下腹部というより腰のあたりに丸くためこんでキープする。胴体が幹になるイメージ。ためこんだ空気を使って吹いてみると、なるほど、耳に聴こえてくる自分の音がまったく新しいものになった。音の密度が高くなったことが自分の耳に知り得る。楽器が勝手になっているのではなく、わたしのからだが楽器を鳴らせているという実感。これもからだが現場になっているという感覚だ。

からだに空気を通して、手足を動かす、楽器を吹く。呼吸でスイッチをオンに切り替えて、背骨で全身の筋肉を支える。からだを現場にすることで、ダンスが生まれて音楽が鳴る。ものすごく日常的な所作がドラマチックになるのはなんてうれしいことなんだろう!