電車と鎌倉と珍しいキノコ舞踊団

ナイスビュー!

晴れたにちよう日は行楽の気分。二日酔いと寝不足を蹴散らして、甘栗とお茶をかばんにつめこんで鎌倉まで遠足です。「江ノ島・鎌倉フリーパス」というひじょうに便利な切符を持って、小田急線に乗り込みます。発車オーラオイ、先頭車両の運転席の背後、いわゆる鉄キチポジションに立ってナイスビューをたのしみます。快速特急はグングンと速度をあげて走り、藤沢駅で各駅停車に乗り換えれば、小一時間で江ノ島に到着。

今度は春に江ノ島生しらすを食べようと決めて、それから江ノ電に乗車。残念ながら空が曇っていたので海沿いの景色は楽しめなかったものの、せまい道を走る二両編成ののんきな横揺れとレールがきしむ音には観光気分が盛り上がります。長谷まで江ノ電を楽しんだら、鎌倉駅まで町を散歩。鎌倉には何度かあそびにきたことがある。冬の瑞泉寺の景色、歌碑に刻まれた山崎方代の「手の平に豆腐をのせていそいそといつもの角を曲りて帰る」、夏の朝に江ノ電に乗って出勤したこともあった。今度は喫茶イワタでホットケーキをいただいてひさしぶりにゆっくり散歩してみたい。友人マヤちゃんが教えてくれたお店、鶴岡八幡宮の近くの「大佛茶廊」では紅梅が咲き始めたみたい。って、う、やっぱりここもIDEEか。

大船に移動して、鎌倉芸術館にて珍しいキノコ舞踊団のダンス公演、「3mmくらいズレてる部屋」を観る。キノコを観るのは、二〇〇四年春、ホテルクラスカでの「FLOWER PICKING」公演以来。今回の舞台は昨年、オーストラリアとのダンスによる文化交流プログラムで製作された作品で、オーストラリアのジャスティン・カレオというアーティストが作った家具を美術に使って作り上げた舞台。海外での製作後、金沢と名古屋で発表を重ね、今回の鎌倉では一回限りの上演。前半はすこし硬い印象があったものの、おしゃべりを交えたあたりからゆるやかなキノコ温度が広がっていった。
片側だけ脚の短いテーブルはななめに傾いて、キノコのダンサーがすべり降りる。動物のような形状の椅子は、ダンサーに背負われて舞台のあちこちに運ばれる。「&」のオブジェはマスコットのようにもてあそばれながらも、おかしな家具たちを文字通りにジョイントする「&」の役割をちゃんと果たしている。パズルのような家具が置かれた部屋で、三ミリ分のズレを三時のお菓子がわりに、茶飲み話で笑いあうキノコたち。「フリル(ミニ)」などでおなじみのアートユニット「生意気」と生み出すシックリ感とはまた全然違ったズレが新鮮だった。
今回のダンスは、ちょっと意外なことに、ソロの踊りが際立っていた。五人でからだを揺らし、からまりあってはほどけていくアンサンブルよりも、個々のダンサーのキャラクターが立っていた。キノコの動作と伊藤千枝の振付構成は、いつも観客に「からだをうごかすこと」の愉快な秘密を教えてくれるのだけど、今回は、自分も踊りたくなる欲求のほかに(実際、キノコのダンスは、ときに観客を巻き込んで大きな輪を作って踊りだすこともある)、客席に留まり続けたいと願う観客の特権を感じられるシーンが多々あって、いつもとはちがった角度からも楽しめる舞台だった。


珍しいキノコ舞踊団 http://strangekinoko.com/