ジョン・フォードの鋭利な喜劇

アン・シャーリーもかわいいです

ジョン・フォードの『周遊する蒸気船』(1935/米)をようやくスクリーンで観た。渋谷円山町シネマヴェーラで、ヘンリー・ハサウェイの『ナイアガラ』と二本立て。

昨年、目白の学習院大学での山田宏一さんの映画誌講義で、この映画の一部を観せていただいたことがあった。そのときの驚きといったらどうだ。怒涛のスラップスティック・コメディ、無駄なシーンなんてひとつもなく、好奇心で画面を覗くとおりにカットが割られていく。岸辺で演説をしていた預言者「新生モーセ」を投げ縄でひっかけて川の中を引っ張るシーン(しつこいくらいに長い)や、ワシントンらナポレオンなど偉人たちの蝋人形を燃料代わりにガンガン燃やしていくバカバカしさ、いつの間にか新生モーセが率先して木製の甲板やらハシゴやらを叩き壊して炉に投げ込んでいく荒唐無稽さ、ついにはアルコールを突っ込めば、煙突から炎が上がって大笑い。画面のひとつひとつが、とにかく川の流れのように美しく愉快で無駄が無い。ただのバカ騒ぎなんかと違うのはあきらかだ。だってこの映画はジョン・フォードが作っているのだから。

一九七三年、第一回目の「AFI功労賞」受賞者がジョン・フォード。以前、その受賞式の映像を観せていただいたことがあった。主役のジョン・フォード、彼の佇まいそのものが「映画」だった。映画は待ってくれる、ではなく、映画に愛されたひとが確かにいたのだ。
http://d.hatena.ne.jp/htr/20060612

周遊する蒸気船 [DVD]

周遊する蒸気船 [DVD]