五月の風景2 芍薬と向田邦子

五月十二日、土曜日、晴れ。

午前中は机に向かって昨日と同じようなことを繰り返してはグンニャリする。

午後は南烏山にある世田谷文学館にて春の企画展「向田邦子 果敢なる生涯」を鑑賞。のちの作品で垣間見られるその生い立ちが年表とエピソードで綴られ、生原稿や写真、手紙や封筒の裏の走り書きまでも展示されていた。多くのドラマ脚本やエッセイ、小説の舞台裏を顧みながら、向田邦子さんの果敢なる生涯を真面目に追いかけた見ごたえのある企画展。

最初のお勤めだった秘書から転職して、映画雑誌の記者を経て、駆け出しのシナリオライターとして踏ん張っていた二十代。仕事の多さと質の高さにも驚いたけれど、当時の恋人が撮った写真の中の凛とした佇まいと愛らしさといったら!

寺内貫太郎一家』の最終回を観た。梶芽衣子演じる一人娘の嫁入りの回。ドタバタとホロリのバランスがすばらしくって笑いながら泣いた。伴淳も出てるし谷啓由利徹もいいのよねえ。そして展示の終盤、飛行機事故後のお葬式、山口瞳氏の弔辞原稿でまた泣いた。

花屋の店先に芍薬の花が咲いている五月。わたしのなかで向田邦子は、白い芍薬の花のようなイメージだ。パッと華やかでありながらも慎ましく奥深く、かさなりあった花弁の重さををぐいっと自身で必死に支えている、そんな女性。