Good Old Future! 東京メトロ副都心線とSDP

町に新しい線路ができる、そんなニュースを耳にしただけで浮き立つのはなぜでしょう。六月十四日、東京メトロ副都心線」が開業。有楽町線の新線から東京の町を縦断する、あたらしいライン。

この数年、新線開業はべつだん目新しいことではないのだけど、日暮里・舎人ライナーも、つくばエクスプレスも、押上まで延長した東京メトロ半蔵門線も、いまいち行動範囲に重ならないので縁がなかった。ここしばらくの東京の鉄道ニュースでいえば、線路よりも中央線のE233系導入のほうが心踊ったハナシではあったけれど、消音仕様のスムースな新車両がすっかりハバをきかせてしまった今となっては、やっぱり娘十八お転婆時代のわたしを見守ってくれた、オレンジ色の201系のほうが中央線原風景なのよね、というワガママなジレンマ。

開業から二週間ほどが過ぎた六月の宵の口。無用の用時に恵まれて、さあ、縦断の旅へ出かけましょう。出発点は池袋。有楽町線の改札を出て、地下街を抜けて、副都心線の駅へ。まだ工事途中だったり、壁から新しい建物の匂いがしたり、券売機がすべて新型だったりするのがうれしい。やってきたのは各駅停車。新型の10000系ではないけれど、まあいいや。そのへんはゆるやかな鉄道ファンなので、偶然まで否定するつもりはありません。この先が新しい線路なのだ。明治通りの地下を走る、未知なる世界なのだ。

 

出発! 鼻息荒く先頭車両に乗るも、運転席の窓が見えないので、ふてくされて座席に座る。地上を走る路線とちがい、地下鉄は走り出してしまえば車窓は暗くて単調だからそうそう面白いものではない。「このカーブの角度が!」とか「この加速が!」とか「このブレーキ音の響きが!」といった楽しみを持つわけでもなく、見えない地上を思い浮かべられるような豊かなイマジネーションも持たないので、はやく次の駅につけばいいのにとおもう。停車駅で急行に抜かされたときに、壁の向こうを10000系が疾走していく振動で興奮したくらい。

さて、いわゆる「地下鉄13号線」と呼ばれてきたこの新線計画。数年前、渋谷駅前の東急文化会館が取り壊されて五島プラネタリウムがなくなってしまったのはさみしかったけれど、こうして現在、地下につくられた「渋谷駅」はなかなかに立派だからヨシとしよう。

渋谷駅には開業当日に物見遊山でやってきてはいたけれど、改札内やホームに降りたのははじめて。アンタダ先生の意匠建築らしく、豪快な吹き抜けのドーム造り。地下一階の改札階からホームまでが見下ろせる。白や薄い灰色ばかりの色味をおさえた無機質なムードの地下駅なのだけれど、空気の抜けがよいので息苦しさは感じない。きっと、ほんとうは太陽光を差し込ませたり、雪を降らせたりしたかったんだろうなあと建築家の思惑を想像する。数年前に働いていた会社の建物はじつはアンタダ物件で、吹き込む雨や雪と共存した数年間に安藤忠雄建築のコンセプトを体感したのです(コンクリート打ちっぱなしの五階建て。冬は寒くて夏は暑い。むかしはレストランだったらしく、厨房にあたる場所が会議室だった。貴重な初期建築のひとつだったはずが、使い勝手の悪さから勝手に屋上にプレハブ小屋を建ててしまったことで、御大が怒ってリストに入れなかったとかなんとか。その後よその持ち物になって、いまは取り壊されて跡地にマンションが建ったと聞く。いろいろとムチャが重なったのと水まわりに難があり、入社一年目で水没事故に遭ったりもした)。あと、去年行った那覇OPA。ここもアンタダ物件、無愛想なくらいのコンクリート尽くし。ライヴハウスのステージの奥の扉から出ると屋上で、コンクリート打ちっぱなしの無機質なテラスには大きなガジュマルの木が植わっていた(これがほんとうに大きくてすてきだった)。出番じゃないときはずっと木のそばでくるくる踊っていた。ステージから聴こえてくる爆音をよそに、二月なのにここちよくあたたかな夜風がきもちよかった。

 

終点の車止め。四年後にはここから東横線に乗り入れて横浜まで延びるという。鉄道会社間の「ステップ・アクロス・ザ・ボーダー」。近い将来に向けてのターミナル駅らしく、まだいまは眠る線路の姿をちょっと見せているのも、近い「未来」をかんじさせてくれてうれしいね。

ところでこの副都心線。開業前に気もちを煽るテレビコマーシャルがずうっと流れていた。音楽はスチャダラパー。ウキウキするよなメロディ。ほんの十五秒、その「Good Old Future」という曲がすっかり六月のテーマソングになっていた。歌詞や言葉もサービス精神たっぷりのコマーシャルソング。まちがいなく商業の範疇にありながら、数秒でこころを的確につかむ正しいポップス。好きです、スチャダラパー(by小泉今日子『スチャダラ大作戦』)。この曲が流れる副都心線のCMとメイキングは、副都心線のウェブサイトで見られます。ディレクターは箭内道彦さんだったんだね。なるほどねえ。

そういえばと、昨年のSense of Wonderでバスが渋滞して見逃していたTHE HELLO WORKSの『PAYDAY』をいまさらながらに聴き、そして六月にリリースされたスチャダラパーの新譜「ライツカメラアクション」を聴いた。『PAY DAY』に収録されている「今夜はブギーバック」のセルフカバー。それは一九九四年、池袋P'PARCOがオープンするときのCMソングだった。あれから十四年が過ぎて、渋谷と池袋を結ぶ明治通りの下にあたらしい地下鉄が走った。昔、かわいいと思っていた男の子が、しばし離れていたあいだにいくつかのシリアスな時代を経て、地下鉄で再会したらすっかり男前になっていた。時は過ぎたけど、スチャダラはスチャダラのままだったし、それでしかない。いまのスチャダラパー、観たいなあ。二〇〇八年の新しい地下鉄は渋谷駅を折り返し、新宿三丁目駅で下車。伊勢丹の地下を冷やかしてめかしこんだケーキを買い、上階で天ぷらと瓶ビール。過去をふまえて、近い未来を心待ちに、現在にあらためて恋をする、Good Old Future、新しいメトロの旅でした。

ライツカメラアクション

ライツカメラアクション

PAYDAY

PAYDAY

【東京メトロ 副都心線】